サンダー・キャッツの発酵の旅 ―世界中を旅して見つけたレシピ、技術、そして伝統

ー奥深き発酵の世界への誘いー
「発酵フェチ」と自称するサンダー・キャッツの2021年に刊行された書籍が翻訳されて日本語で読めるようになった。読者が自分でつくり、体験する「メイカー(ズ)ムーブメント」を牽引するオイラリー・ジャパンのMakeシリーズの書籍なので、タイトルからも分かるように、世界各地を旅して見つけた50以上の発酵食品が紹介され、そのレシピも詳しく説明されている。オールカラーなので、発酵食品の写真も美しい。
インターネット動画でもテレビでも、食レポが流行っているが、発酵食品だけにフォーカスをあてているのは、日本では発酵デザイナーの小倉ヒラク、そして海外ではサンダー・キャッツぐらいだろうか。私は研究者としてアジア各地で発酵食品を調査しているが、製法や利用法を記録して報告書や論文にすることはできるが、現地で食べた発酵食品を忠実に再現し、入手が難しい材料は、代替として使えそうな材料を紹介しながらアレンジしたレシピを紹介することなど到底無理だ。サンダー・キャッツが発酵食品にかける情熱は並大抵のものではない。
紹介されている発酵食品レシピは、肉、魚、野菜、ミルクを材料とし、アルコール発酵、乳酸発酵、酢酸発酵、カビ(麹など)やバクテリア(枯草菌)によって発酵させる食品を幅広くカバーする。すんき、麹、酒粕、塩麹、みりん、味噌、納豆、なれずし、かぶらずしといった日本の伝統的発酵食品も詳しく紹介されている。
しかし、私が興味を持ったのは、訪れたことがない土地でつくられている発酵食品である。アラスカの鮭の頭を発酵させるスティングヘッド、マジョルカ島の熟成豚肉ソーセージのソブラサーダ、イヌイットの人びとがアザラシのお腹に海鳥を詰めて発酵させた保存食キビヤックなどは、発酵食品の中でも玄人向けの珍味である。機会があれば絶対食べてみたいと思わせる。
また南米のトウモロコシの口噛み酒チチャ、リュウゼツラン科の植物の樹液を発酵させたプルケなどの知らない土地でつくられる醸造酒にも興味をそそられる。
サンダー・キャッツの発酵に関する書籍はこれまで5冊が翻訳されているが、まだ読んでないという方に、とりあえず最初の1冊をお勧めするなら、間違いなく本書である。何と言っても、サンダー・キャッツ自信が旅を楽しみ、出会いに感謝し、現地の発酵食品を堪能していることが伝わってくる。発酵って地域の文化であることを我々に教えてくれる。本書は私達を奥深き発酵の世界へと誘ってくれること間違いなしである。