世界の台所の間取り
世界各地の台所から見えてくる工夫と豊かさ
ヒトは『火をつかうことで進化した』とされ、食を整えるための火と水を扱う場が台所である。世界の台所や食は多様であるが、「衣食住」の中の「食住」として繋げた情報は多くはない。
本書は世界の台所探検家である著者が、通常の海外旅行では訪れる機会が多いとは言えない国や地域の一般家庭の台所を訪ねて見聞した、素顔の「食住」の紹介である。
これを書いているわたしも30余年モンゴルを中心に、各国で食と栄養の調査を行い、その家の台所に共に立ってきたが、著者が探検として訪ねた世界の台所と、食についての新鮮な驚き、熱意、好奇心とともに、多様な文化への敬意が伝わってきて嬉しくなった。
本書には、ある国では限られた居住スペースの中で、物や道具の置き場所も弾力的に工夫され、驚くような場所で加熱が行われ、ある国では暑さを避けて加熱は外で行われ、屋外まで台所が拡がり、草原では家畜の搾乳場も含めて台所といえるかもしれないと記されている。生活地域の環境、家族構成、個々の住居の在り方によって、台所とする場所、その形、スペース、電気製品、使う道具等は多様ながら、共通しているのは、熱源の火と水場への留意と、習慣を大切にしていることだ。便利さ、機能性だけでは語れない暮らしがあり、季節のテント生活を営む台所はどこでも物が少ないが、単に物が少ない質素な暮らしではなく、「本当に必要なもの」と「本当に大切な物」が紡ぐ美しいバランスだったと記されていることの意味は、大きいのだ。そして皆、世界で一つのかけがえのない台所なのだ。
翻って我が国の台所は火と水が完備し、商業的に提供されたシステムキッチンが主流で、使うヒトの側が台所に合わせていると著者は指摘する。世界の台所を知ることで、日本の台所が逆照射されてくるのだ。
そんな世界の台所の間取りが、本書では俯瞰したスケッチで人物とともに描かれている。欄外の台所の熱源や水場、窓の位置、戸棚、鍋や諸道具についての情報と合わせることで、読み手の頭の中で3次元の台所が立ち上がってくる。各台所の紹介の最後のページの "○○の台所、ここにも注目"は、その土地の空気を存分に吸った著者ならではの、「食住」の周辺に関する情報が掲載され、写真の料理もとても魅力的だ。読み進むうちに、記された各地の台所に立って、その台所の知恵と工夫に著者とともに感心したり、あたかも料理を味わったかのような気持ちになってしまう。
読後、台所について考えているうちに、祖父母の古い家の台所の配置や料理を思い出し、温かく、幸せな感覚が胸に満ちてきた。