Productions 『vesta』掲載
おすすめの一冊

『共食と孤食 50年の食生態学研究から未来へ』

足立己幸編著、衛藤久美著
vesta134号掲載

 家庭内の食事の実態は、アンケート調査などからは、なかなかわかり難い。足立己幸氏を中心とする「食生態学研究室」とNHKの「おはよう広場」担当グループは、家庭の食事の実態を明らかにするため、日本各地および海外の小学生が描いた食卓の絵と面接調査から分析を試みた。

 1981年と1999年に実施されたこの調査は、テレビ放映され大きな反響を呼んだ。その結果は、『なぜひとりで食べるの』と『知っていますか子どもたちの食卓』と題した書物にまとめられた。

 評者もこれらの報告は鮮明に記憶に残っている。描かれた絵からは、食事と周囲の様子だけでなく、描いた本人も気づかない子どもたちの気持ちや人間関係が伝わってきたからでもある。「孤食」「個食」などの言葉もこれを契機にひろがった。

 本書では、このような調査を含む「共食・孤食」をテーマとした50年の研究と多様な実践を振り返るなかで、改めて「共食・孤食」とは何かを検討する必要があるのではないかと問いかけている。

 「共食」の場が家庭から地域、学校施設や福祉・医療施設、子ども食堂などにひろがるなか、それらを包括するような共食の概念を共有する必要があるという。そして、「共食」と「孤食」は、対立する関係ではなく、「多様な共食様式の両側面と捉えることが、現実に合っているように思われる」と述べていることも注目される。

 本書は六章からなる。第1章は足立氏の85年余の自分史を通した具体的な体験から得た「共食・孤食」について、第2章は、前述の食事スケッチによる調査、高齢者への調査などの様々な調査と結果について、第3章および第4章は衛藤久美氏による新しい研究成果や国内外の「共食・孤食」研究の紹介、コミュニケーション論からの「共食・孤食」の検討、第5章では、蔵王での食事づくりセミナーなど地域で育つ共食の実践例、第6章では、持続可能な社会に向けて「共食の地球地図」を提案している。

 その図は、個人から家庭、地域、国から世界へと広がる俯瞰図である。各自が自分の共食や孤食をマッピングし眺めてみるといろいろな関係性がみえて「発見」が期待できる。互いに議論するためにもこの地図を活用してほしいとあり、詳細な使い方や事例も記されている。

 さらに印象に残ったのは、食事が栄養素中心に評価される事が多い中、人間側から見ることが大切だと感じたことが「誰と食べるか」などの研究につながったとの記述である。科学の客観と人間の感情や関係性などの主観とのバランスをどうとるのか、各分野の専門家が議論する場が多くなることを期待したい。

東京家政学院大学名誉教授 江原絢子