大鍋で「八戸せんべい汁」をつくる

昨年11月、第7回「B-1グランプリ」が、北九州市小倉でおこなわれた。酩酊先生は、毎年1度開催されるこの行事の役員を務めているので、第1回から皆出席である。2日間の会期中、昼間は会場で出展された各地の郷土料理を1日に10種類くらい試食する。食いしん坊の酩酊のこととて、夜は開催地の名物料理を食べに出かけるのが常である。今回も帰宅してから体重計にのると、1.5キロ肥っていた。

「B-1グランプリ」の正式名称は、「B級ご当地グルメの祭典!B-1グランプリ」という。B級グルメというイメージが先行し、全国の安価な食べものを販売することが目的の行事と誤解されることがある。

「B級ご当地グルメの祭典」ということばのなかで、いちばん重要なキーワードは「ご当地」である。それぞれの地方で親しまれている自慢の郷土料理を全国に知ってもらうことによって、まちおこしをしようとする趣旨のイベントなのである。「B-1グランプリ」に加盟する地方団体の連合を、アメリカの名門私立大学の連盟である「アイビーリーグ」をもじって「愛Bリーグ」とよぶ。北九州市での大会には、63団体が出展した。野外会場にテント張りのブースをつくり、そのなかで地元から運んだ食材で料理し、1食500円以下の価格で提供する。人気ブースの前には、30分から1時間待ちの長い行列ができる。

今回は、過去最多の61万人の来場者があった。鳥取県の人口よりもおおい人数が、2日間に会場に集まったのである。開催地の地元経済をうるおす効果もおおきい。2010年の厚木大会では、32億円の経済効果があったと算出されている。

郷土料理を提供するだけではなく、歌や踊りのパーフォーマンスもおこなって、わが町のPRをする。提供された料理の味やパーフォーマンスを評価して、上位3団体に、ゴールドグランプリ、シルバーグランプリ、ブロンズグランプリが授与される。賞牌は塗り箸の名産地である福井県小浜市でつくられた、金色・銀色・銅色の巨大な箸である。賞の審査は、来場者の投票によってきめられる。来場者が料理を食べるのに使用した割り箸を出展団体の名が記された投票箱にいれ、箸の総重量を計量して順位がきまる。

北九州大会での、第1位は南部せんべいを汁にいれた「八戸せんべい汁」を出品した「八戸せんべい汁研究会」、第2位はたれに漬けこんだ豚肉を焼いた「対馬とんちゃん」の「対馬とんちゃん部隊」、第三位は焼き豚と玉子焼きをのせた丼物である「今治焼豚玉子飯」の「今治焼豚玉子飯世界普及委員会」であった。

「八戸せんべい汁」は、約200年前から食べられている伝統料理である。「対馬とんちゃん」は、戦後まもなく対馬北部で在日韓国人がひろめた料理であるし、「今治焼豚玉子飯」は40年前の中華料理店のまかない飯にルーツをもつといわれる。 

63の出展料理を検討してみると、明治以前にルーツをもつ郷土料理はすくない。いちばんおおいのは、焼きそば、焼きうどんで、あわせて24団体にのぼる。麺類を炒めてつくる料理は、中国料理の炒麺を日本化したことに起源をもつ。お好み焼き、たこ焼き、ラーメン、餃子、チャンポンなど、広義のコナモンが出展料理の半分以上を占める。また、焼き肉、トンカツ、カレー、コロッケなど、肉を使用した料理もおおい。

そのおおくは、戦後になって普及し、地元ではそれを食べさせる店が数10軒できて、あたらしい郷土料理として定着したものである。「B-1グランプリ」に参加すると、日本の食文化の活力を実感することができる。

今年の「B-1グランプリ」は、11月9~10日に愛知県豊川市で開催される。

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