Washoku 「和食」文化の保護・継承活動の報告コーナー

まずは『ユネスコ無形文化遺産』について知ろう

2013年04月22日(月)

会場 味の素食の文化センター多目的室
参加人数 12名
主催 ギリークラブ

REPORT

「和食が目指すユネスコ無形文化遺産」について、3月のシンポを聴きに行って、あの時はわかったような気がしていたんだけれど(熊倉先生の話もお上手なので)、ほんとにちゃんとわかったと言えるのか。自問してみると、あまりにも心もとない。そこで、耳寄りの情報をゲット。食の文化センターを会場に、専門家を呼んでばっちり話をお聞きする勉強会が開かれるとのこと、さっそくお願いしてもぐりこませていただいた。
この勉強会は「ギリークラブ」主催という。聞き慣れない名だが、マスコミ関係や料理人さん、食品メーカーの方など、食分野の専門的な方がメンバーで、座学ばかりでなく、現場に出向いて見学会を行うなど意欲的な活動をされているようだ。さらに驚きは、このユネスコ無形文化遺産申請の話、聴講希望者多すぎて1回では収まりきらず、2回の開催になったという(会員でない私は、隅っこで聴かせていただきました)。

講師は、農林水産省食ビジョン推進室の久保田一郎室長である。文化遺産の話だから文化庁の十八番(おはこ)とも思ったが、そこは農水省、まさに食の要、農水産物の生産振興をするお役所だから、食文化の推進は省是なのだ。そういえば、シンポの時も後援者として、農水省の方がいい挨拶をされたっけ。
久保田室長は、そもそも「ユネスコ無形文化遺産」とは何か、から話を始めた。「無形文化遺産」とは読んで字のごとく形のない、芸能や伝統工芸技術などの文化で、その土地の歴史風土や生活風習と密接にかかわるもの。これはわかる。同じくユネスコが管轄する世界自然遺産や世界文化遺産とはまったく別な枠組みで、じつは2003年に採択され2006年に発効した新しい条約(「無形文化遺産の保護に関する条約」)なのだと。片や世界遺産が1972年の採択から40年余りの歴史をもっているのと比べると、まだ出来たてだ。これだから一般には、よく知られていないわけか。

それなのに、2013年2月時点で、日本からすでに21件のものがこの「ユネスコ無形文化遺産の代表一覧表」に登録ずみという。えー、知らなかった。能楽や人形浄瑠璃、歌舞伎ときけば納得。さらに小千谷縮や越後上布といった工芸品や那智の田楽などの祭りや舞踊などなど(ちなみに、末尾に21件のリストを載せておきます。どれだけご存知ですか)。うーん。よく考えれば日本国内でも、伝統工芸や伝統芸能など、無形文化を保護する仕組みが以前からある。この点では、日本はユネスコ(世界)よりずっと先を行っていたと言えるんだよね。人間国宝(重要無形文化財保持者)もたくさんいるし。

そこで、久保田室長が強調したのが「代表的一覧表」という言葉。つまり「ユネスコ無形文化遺産登録」というのは、この一覧表に載るということで、登録されなかったからといって無形文化遺産ではない、ということじゃないと。あくまで登録は代表例なのだ。それを選ぶことで、無形文化遺産のいっそうの「保護」を目指すものである、と(これは世界遺産も同じで、登録されたと浮かれてばかりはいられない。適切な保護がされなければ、登録を抹消されることだってある)。

そのユネスコ無形文化遺産に初めて「食」関係のものが登場したのが2010年、「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」の3件。翌2011年にも「トルコのケシケキの伝統」が加わった。そこで話はさらにややこしくなる。「食」といっても、料理そのものが登録されたわけではない。条約には「食文化」の項目はなく、「社会的慣習」としての登録だと。えっ、それって何だ。「地中海料理」とか、「料理」の語が入っているじゃないか―。
久保田室長はたたみかける。条約が定義する「無形文化遺産」は次の分野のみと。

(a)口承による伝統及び表現
(b)芸能
(c)社会的慣習、儀式及び祭礼行事
(d)自然及び万物に関する知識及び慣習
(e)伝統工芸技術

このうちの(c)社会的慣習の分野であり、今回の日本の申請も然りと。こうまで言われれば「わかりました」と言うほかない。
もう一つ。「地中海料理」はスペイン、ギリシャ、イタリア、モロッコ合わせての申請だが、それぞれの国全体のことではなく、「メキシコの伝統料理」もメキシコの国すべての話ではない。限られたコミュニティで伝統として継承されてきたものが対象とされている。一方、「フランスの美食術」は、フランスの国全体としてもっている慣習として登録されたんだって。そして、日本はこの「フランス方式」での登録を目指している―。
そうか、地域限定というのは、日本の登録済みのものを見ればほとんどが「〜の」的な地名付きだし、これのことか。それなら実績もあるわけだ。熊倉先生が言った、「特定地域の食の伝承なら、ある意味、登録もたやすいのだけれど、あえて困難なフランス方式を目指す」という意味が、ようやくわかった。
そして「和食(WASHOKU);日本人の伝統的な食文化」として申請提案書が2012年3月に提出された。
もちろん、このユネスコの無形文化遺産化への運動が商業主義とは一線を画すものと、しっかり釘も刺された。

久保田室長の話はまだまだ続く。
これは、なかなか複雑で奥が深いことなんだ。味の素食の文化センターは、この登録申請を国民運動として盛り上げていくため、これからもさまざまな啓発・普及活動を進めるという。センターそのものが日本の食文化の殿堂だし、「日本食文化のユネスコ無形文化遺産化推進協議会」のメンバーというのだからもっともな話。私も、その活動の「おっかけ」となって、じっくり推移をみていきたい。
ということで、講義のあと、ギリークラブ代表・渡辺幸裕さんの司会で活発な質疑が交わされたが、そちらは改めて別な機会にふれたいと思う。

【わが国のユネスコ無形文化遺産(2013年2月現在)】
2008年:能楽 人形浄瑠璃 歌舞伎
2009年:雅楽 小千谷縮・越後上布(新潟県) 石州半紙(島根県) 日立風流物(茨城県) 京都祇園祭の山鉾行事(京都府) 甑島のトシドン(鹿児島県) 奥能登のあえのこと(石川県) 早池峰神楽(岩手県) 秋保の田植踊(宮城県) チャッキラコ(神奈川県) 大日堂舞楽(秋田県) 題目立(奈良県) アイヌの古式舞踊(北海道)
2010年:組踊(沖縄県) 結城紬(茨城県・栃木県)
2011年:壬生の花田植(広島県) 佐陀神能(島根県)
2012年:那智の田楽(和歌山県)