Washoku 「和食」文化の保護・継承活動の報告コーナー

もっと知りたい無形文化遺産化ー「和食」って何?

2013年06月19日(水)

会場 女子栄養大学坂戸キャンパス
参加人数 200名
主催 女子栄養大学

REPORT

今回のレポートでは、とにかくユネスコの無形文化遺産に登録申請した「和食」って何か、それを押さえておきたい。一般的にも使われる言葉だから、私にも自分なりのイメージがある。それとどう違って、何が同じなのか。シンポジウムでの熊倉先生の説明もお聞きしたが、いまひとつピンときていなかった。
今日の舞台は、女子栄養大の坂戸キャンパス。特別講義として、食ビジョン推進室の久保田一郎室長が出前授業「なぜ今、日本食文化なのか!?」を行った。会場の階段教室では、管理栄養士を目指す学生さんたちが席をうずめ、「将来、食関係の仕事に携わっていく皆さん方に、ぜひこの機会に、日本の食文化について学んでほしい」という守屋亜記子准教授の言葉で、1時間半にわたる久保田室長の講義が始まった。

イントロは、海外におけるいわゆる「日本食レストラン」店舗数の推移、好きな外国料理は何か(日本食が一番人気)、好きな日本料理メニューは? といった、海外での日本食をめぐるホットな状況を、「なんちゃって日本食」(日本食と名乗るものの、その実態は…?)という話題も含め紹介。一転して、日本の現状を食料自給率や朝食欠食率、栄養バランスの悪化など、数々の指標をもとに解説する。そうか、日本の食生活の乱れなどへの危機感が、「和食」のユネスコ無形文化遺産化運動に結びついたという話もあったし、申請の背景にあるものも、一度きちんとまとめてみないとだめだなあ。
と思いながら、講義は、本題のユネスコの無形文化遺産登録に話題が移っていく。もちろん、まずは世界遺産との対比も含め無形文化遺産の説明もていねいに(これは、ギリークラブの会で報告したのでそちらに譲ります)。この運動が、輸出振興など経済的な目的とは一切関係なく、むしろユネスコはそれらと対極にあるものだということも念を押された。

さて、そこで申請された「和食」とは?
まず、ベースとなる重要なキーワードが「自然の尊重」。
これは、申請に向けて有識者の方たちが集まって議論を重ね、日本文化を特徴づけるものとして「抽出」した言葉だという。まさにエッセンス、日本文化に底流するものの粋。日本人は、山や岩、木など、何かと自然のものを神様とみなして、敬ってきた。その自然を尊崇する思いは、日本人のDNAの中に埋め込まれている、と。そうだ、神社のご神体として、樹齢何百年という木の幹に注連縄(しめなわ)が巡らされたりするし、今度、世界文化遺産になった富士山だって古くから信仰の対象だったんだ。ご来光にも思わず手を合わせてしまうし。日本人の血の中に、自然崇拝の気持ちはたしかに流れているよな。
申請では、「和食」は料理そのものではなくて、この「自然を尊ぶ」日本人の精神性に根ざした「食」に関する「習わし」、と位置づけられていると。うーん、崇高な感じ。でも、ちょっと漠然としてるか。
より具体的には、四つの特徴が示されている。
①多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
②栄養バランスに優れた健康的な食生活
③自然の美しさや季節の移ろいの表現
④年中行事との密接な関わり

さらに、室長の解説が続く。つまり、日本列島は南北に長く、まわりを海に囲まれ、海、山、里の多様な食材に恵まれて、その味わいを活かす調理の技術や道具も発達している(①)。一汁三菜を基本にし、油(特に動物性油脂)に頼らずうま味を上手に使うことで淡泊でも味わい深い食事は、日本人の長寿にもつながっている。これは、お米をベースにしているからこそのもの(②)。器の形や模様だったり、花や葉を添えたり、部屋のしつらえも変えるなど、四季の移ろいを食の全体に表現する感性(③)。本来、農業と密接に関わる年中行事にはセットとなる食も存在した。今度の申請では、お正月を例に、おせち料理や餅つき、お雑煮なども紹介したそうな。そして行事の場がコミュニティのつながりや年長者から若い者へ伝承の機会ともなった(④)。
こう聞いてくると、だんだんイメージも湧いてきたぞ。とにかく「和定食」風の「和食」イメージは捨てよう。「和食」は「WASHOKU」なんだ。料理体系などでもなく、もっと広くて深いもの。皆さんも、イメージできましたか。

そして申請では、「和食;日本人の伝統的な食文化」と題して、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」として、提案された。
講義はさらに、今後のスケジュールや農水省としての「食文化」への取り組みと続き、最後に、
①これまで日本食文化について考えたことがありますか?
②外国人に日本食文化は何かと聞かれたら何と答えますか?
③今日の話を聴いて、日本食文化について改めてどう考えましたか?
という問いが投げかけられた。

その問いに答えた学生さんたちのアンケートから。
①に対しては、「郷土料理」「行事食」などの言葉が見られ、自分で調べたり、伝承を危ぶんだり。面白いのが「和菓子」で、「祖母がよくおはぎを作ってくれ、昔から和菓子の色や形を見るだけで心が落ち着く」と。確かに季節を映す意匠で、「和食(WASHOKU)」の世界観にも通じそうだ。一方「あまり考えたことがなかった」という正直なコメントも多かった。
②については、ずばり「感謝の食事と答えます」も飛び出した。ふだん当たり前だと思っていた「いただきます」「ごちそうさま」が、自然への感謝、命をいただくことへの感謝だという話は、学生さんたちの心に響いたようだ。③への記述でも、「いただきます」などが食文化に含まれることに驚き、またその大切さも実感、残したいものの一つとしている。実家では言っていたのに一人暮らしになって、忘れていると反省も。②には、丁寧に解説された四つの特徴に基づくコメントが多い中、「鉄や亜鉛、マグネシウムなどの微量栄養素をたくさん摂取でき、油分をカットできるヘルシー食」と、さすが未来の管理栄養士さんだと感心しきり。
③では、「文化の継承とは、昔のものをそのまま残すということではなく、その時代の価値観も活かしてつくりあげていくもの」という話への共感が多く、印象的だった。自分たちもその食文化の伝承者になるのだと。また、海外での日本食人気に驚いたり、ぜひ登録を実現しいっそう世界の人に知ってほしいとの声も目立つ。同時に、海外だけでなく、むしろ日本人こそが、この機会に日本の食文化をもっと知るべき、とも。
「無形文化遺産に登録され世界に和食が認められて、それで日本の食料自給率は向上するのでしょうか。日本人の意識にどれくらいの影響を及ぼすことになるのでしょう」というコメントもある。さて久保田室長は、どう答えられますか。
いずれにしても、若い人たちにもこの危機感は共有されているようだ。