Washoku 「和食」文化の保護・継承活動の報告コーナー

和食文化"再考"シンポジウム『再発見!「和食」文化の魅力』【北陸ブロック】編

2013年09月04日(水)

会場 北國会館 10階「香林坊プラザホール」
主催 農林水産省

全国9ヶ所で、開催される農林水産省主催のシンポジウム。それぞれの地域の和食文化について学識者、料理研究家、食の担い手などからの講演と、若い方もまじえてディスカッションを行う。そのうちいくつかに参加して各地域の食文化を学んでいくシリーズ第2弾。
シンポジウムについての正式は紹介はこちら。

石川県金沢市で開催されたシンポジウムの参加報告。

基調講演
 「加賀・能登の食文化」 長谷川孝徳氏(北陸大学 未来創造学部教授)
事例発表①
 「金沢・加賀・能登 四季の郷土料理を伝える」 青木悦子氏(青木クッキングスクール校長、四季のテーブル主宰) 
事例発表②
 「北陸の食を支える、伝統の麹・味噌づくり」 新村義孝氏(新村こうじみそ商店代表)
事例発表③
 「福井県の食文化と伝統料理、伝統野菜」 出倉弘子氏(「食のよろず研究所」代表、料理研究家) 
パネルディスカッション 
 上記4名プラス"北陸の若い人"又木実信氏 北陸大学未来創造学部国際教養学科

REPORT

基調講演 「加賀・能登の食文化」長谷川孝徳氏(北陸大学 未来創造学部教授)
基調講演 「加賀・能登の食文化」長谷川孝徳氏(北陸大学 未来創造学部教授)

日本ではいただきます・ごちそうさまと言って食物そのものに感謝をし、西洋では食物を与えてくれる神様に感謝をする、日本の中でも日本海側はぶりが好きで太平洋側はかつおが好きだというように、風土や食材、精神性、価値観が食品の嗜好をわけ多様な食文化を形成する。同じ石川県の加賀と能登でも食文化の違いはある。
北陸には、巻き鰤、棒だら、へしこのような保存食、醗酵食が越冬食の知恵としてある。名物の刺身の昆布絞めも日持ちしてしかも美味しい。江戸時代、加賀藩は郷土の美味しい食材から味噌醤油の調味料まで江戸藩邸に送っていたほどだ。味噌醤油の調味料はやはり和食の原点で各地域の食文化の源であろう。北陸の伝統的な保存食も、藩邸で食べた食もやはり魚が中心である。加賀の日常の食は一汁一菜が基本だが、侍はその一菜を持ち寄っていろいろな菜を楽しんだし、刺身ははしり・旬・なごりの三種を用意して季節感を楽しんだ。和食には豊かなストーリーがあるのだ。最後は食の伝統を継承するために、行事を大切すべきだと締めくくられた。

事例発表① 「金沢・加賀・能登 四季の郷土料理を伝える」青木悦子氏(青木クッキングスクール校長、四季のテーブル主宰)
事例発表①
「金沢・加賀・能登 四季の郷土料理を伝える」青木悦子氏(青木クッキングスクール校長、四季のテーブル主宰)

金沢の食文化は水と山海の食材に恵まれている。また、武家文化の影響で器・礼儀・美意識があって歴史を食べているようなものだ。そして上下の差が無いのが特徴で、地元の食材で家庭で作った食事を「じわもん」とよび素晴らしい郷土料理が多い。
青木さんは「武士の献立」という映画の料理監修に協力されたそうで、観ていただきたいとPRされていた。ぜひ観てみよう。

事例発表② 「北陸の食を支える、伝統の麹・味噌づくり」新村義孝氏(新村こうじみそ商店代表)
事例発表② 「北陸の食を支える、伝統の麹・味噌づくり」新村義孝氏(新村こうじみそ商店代表)

日本の醗酵食の原点である麹は平安時代に出来た。カビである麹が、食文化の縁の下の力持ちであることを知っていただきたい。皆さん、麹・酵素・酵母の違いがわかりますか。麹はでんぷん、油脂、たんぱく質などを分解する約100種類の酵素を作り、酵母はそのものが糖質からアルコールを作る。日本には豊かな麹文化があり数年前から塩麹ブームにもなっている。これからも古い物を新しく使って新しい和食文化を作って欲しい。

事例発表③ 「福井県の食文化と伝統料理、伝統野菜」出倉弘子氏(「食のよろず研究所」代表、料理研究家)
事例発表③ 「福井県の食文化と伝統料理、伝統野菜」出倉弘子氏(「食のよろず研究所」代表、料理研究家)

福井県は明治時代の軍医で食育を提唱した「右塚左玄」の出身地であり、今も長寿率、地産地消率がトップクラスである。一方で食の乱れも進んでいる。郷土の伝統料理を支えるためには伝統野菜の生産の継続が必要であり、郷土料理の「里芋のころ煮」は里芋が無ければ作れないし、調味料も同じで「角麩の酢味噌和え」のための辛子は現在は福井嶺北でしか生産していない。伝統料理を未来につなぐために「食べる経験を大切に」したい。

パネルディスカッション 上記4名プラス“北陸の若い人”又木実信氏 北陸大学未来創造学部国際教養学科
パネルディスカッション 上記4名プラス“北陸の若い人”又木実信氏 北陸大学未来創造学部国際教養学科

果たして家庭で和食は食べられているのかとの設問から、そもそも和食の定義は何かとの問いに発展して、ご飯+味噌汁+お茶は必要なのではないかと結論された。まずご飯だが、学生の朝食をみても半分はご飯を食べているとの観察もあり、アミノ酸バランスもよいし、新米のおいしさは格別だし、米の未来はまず安泰であるようだ。一方で漬物は衰退の一途でありどうすれば良いのか。メンバーからNY滞在中にパンとビールで漬物をつけてまで食べたとの体験談もあったが、若い人の漬物離れが顕著であるとの指摘があった。和食の保護継承のためには、「だし」のとり方を大切にするのがよいだろう、若い世代が自分で料理することが大切だと提起された。また、祭りの機会が減り「よばれ」の習慣も無くなっているので、まずは餅つきなどの身近な行事に取り組むことも提起された。
今回も、前回のシンポジウムと同様、団塊の世代以降の大人世代の食文化への技術、知識、意識の低さが和食文化継承の大きな課題であるとされた。これは重大な問題提起だと感じた。学校給食が子供たちの舌を作り、今後の食文化を形成していくとの指摘もあり、食文化の継承における学校給食の位置付けは高くなっているようだ。
金沢でのシンポジウムでは、北陸地方、特に加賀金沢の食文化への誇りと自信を感じた。富山湾、能登など豊かな食を支える環境を持ち、歴史的にも加賀藩以来の絢爛で雅な文化があり、実質的にも見た目にも豊かな食文化が形成されたのであろう。今後とも金沢は和食文化の継承の要の地になるだろう。(了)