Washoku 「和食」文化の保護・継承活動の報告コーナー

和食文化"再考"シンポジウム『再発見!「和食」文化の魅力』【近畿ブロック】編

2013年09月17日(火)

会場 天王寺区役所
主催 農林水産省

全国9ヶ所で、開催される農林水産省主催のシンポジウム。いよいよ、「和食」文化の保護・継承国民会議の熊倉功夫会長の登壇です。財団からの報告としては第3弾目になります。
シンポジウムについての正式は紹介はこちら。
大阪市天王寺で開催されたシンポジウムの参加報告です。

<プログラム>
基調講演
「日本の伝統的食文化としての和食」
         熊倉功夫氏(静岡文化芸術大学学長、「和食」文化の保護・継承国民会議会長)
事例発表①
「奈良の食文化の源流~平城遷都から郷土料理まで」
         的場輝佳氏(奈良の食文化研究会理事、関西福祉科学大学教員教授) 
事例発表②
「日本料理を正しく世界へ発信する」
         村田吉弘氏(株式会社菊乃井代表取締役、日本料理アカデミー理事長)
事例発表③
「なにわに美食あり。大阪の豊かな食文化」笹井良隆氏(「浪速魚菜の会」代表理事) 
パネルディスカッション
上記4名プラス"近畿の若い人" 阪中舞さん 梅花女子大学食文化学部食文化学科

REPORT

基調講演 「日本の伝統的食文化としての和食」
基調講演 「日本の伝統的食文化としての和食」
熊倉功夫氏(静岡文化芸術大学学長、「和食」文化の保護・継承国民会議会長)

まずはユネスコ無形文化遺産化への申請の経緯と意義について触れた。和食文化について日本人が自分達の問題として考えることが大切であり、和食の伝統的な構成である「ご飯+味噌汁+おかず+お茶+香の物+膳立て」を大切にして、自信をもつこと、日常の生活に取り入れて次世代に継承することの重要性を強調した。和食文化が無形文化遺産化になる・ならないに関わらず、我々はどのように次世代に和食文化を継承していくのか、どうすれば若い世代へ、更に次の世代へと継承がなされるのかを真剣に考える時が来たのだと力強く話された。

事例発表①「奈良の食文化の源流~平城遷都から郷土料理まで」
事例発表①「奈良の食文化の源流~平城遷都から郷土料理まで」
的場輝佳氏(奈良の食文化研究会理事、関西福祉科学大学教員教授)

奈良は今でも農業が盛んで、日本酒のルーツであること、歴史的にも奈良時代に煮炊きの料理法がは奈良時代にあること、現在でも例えば大和野菜として23品目の選定を行っていることなど奈良発の優れた和食文化について説明した。県農業研究センターの高度化や、大和の味との出会いの場づくりを通じて、地域発の全国ブランド作りをすすめていくつもりだ。今後とも伝統と工夫を大切にしていきたい。

事例発表②「日本料理を正しく世界へ発信する」
事例発表②「日本料理を正しく世界へ発信する」
村田吉弘氏(株式会社菊乃井代表取締役、日本料理アカデミー理事長)

料亭の活動は風俗法で規定されることからもわかるとおり、食は文化として認められていない。京都府では食を文化と位置づけて活動しており日本料理界も連携している。小学生が和食そのもの、もしくは和食から学ぶ食育授業カリキュラムに力を入れている。海外のシェフが和食を学ぶ日本料理フェローシップや、日本料理コンペティションに海外枠を設けたり、海外での日本料理普及イベントには京都大学の伏木先生にも協力いただくなどいろいろやっています。日本料理の有望な若手が京都大学の大学院で学ぶことにもなっていて、京都では高等教育機関に和食文化を学ぶコース設置の予定もある。海外向けの和食文化に関する書籍も5ヶ国語で作成することも予定している。

事例発表③「なにわに美食あり。大阪の豊かな食文化」笹井良隆氏(「浪速魚菜の会」代表理事)
事例発表③「なにわに美食あり。大阪の豊かな食文化」笹井良隆氏(「浪速魚菜の会」代表理事)

大阪は昔から食材の供給地として市場が発達した。値打ちのあるものを食べるという食に対する価値観がある。料亭のきちんと味と、粋だけれども荒っぽくざっくりしてけれどもおいしい料理が両立していた。料理人が充実していて、料理人文化がある。芝居見物のお客さんが料理人と一体になって料理を作り上げ、家庭にも持ち込んだ。カウンター割烹も大阪が原点ですよ。大阪の良い料理人が、何代も続く京都の料亭に入って京料理を支えていることも忘れないでほしい。興味ある方は辻嘉一さんと湯木貞一さんの対談や、なにわ料理については宮本智恵子さん・上野修三さんの著作にも目を通してほしい。

パネルディスカッション 上記4名プラス“近畿の若い人”阪中舞氏 梅花女子大学食文化学部食文化学科
パネルディスカッション 上記4名プラス“近畿の若い人”阪中舞氏 梅花女子大学食文化学部食文化学科

的場氏・村田氏よる「だし」と「うま味」談義から始まった。あくがなく、淡白な味わいは日本にしかないもの。世界はカロリーの高い油で味を作るが、日本はカロリーの低いうま味を中心に味を構成する。世界でも「だし」や「うま味」が認められてきており、デンマークではトナカイをかつお節のように使うレストランも出てきた。「うま味」は塩味・甘味・苦味・酸味とならび五つの基本の味のひとつであり。2002年に舌に受容体が発見されている。
笹井氏より、大阪が「食べてすぐ美味しいと思う料理を大切にする」のに対して京都は「残心ともいうべき、三日してからああ美味しかった」という味をめざす、これを大阪の食い味と京の持ち味という。との京阪の比較が勉強になる。
若い阪中さんも入り、家庭での和食文化の継承が難しいこと、学校給食の役割が大きいこと、が討論された。洋食と和食の区別のつかない小学生をどうするか、現状15分で給食を食べ終えてしまうのをゆっくり食べるようにできないのか、牛乳は給食以外の時間に飲むことに出来ないか、などの意見が出た。
一方で高齢者の食についてもテーマにあがり、ゼリーに頼らずに、食材を一度粉砕してから成型して硬度以外は食感、風味を通常の和食と同じにするなど嚥下食の改善により3世代が楽しめる食卓の実現を目指す取組の報告が的場氏よりあった。
若い阪中さんから地域差について質問があり、笹井氏が日本の食文化の多様性を大切にしたいと回答、また京都では小学生に食器・食べ方まで教えているのかと質問が続き、村田氏からこれからの宿題であるとの回答があった。
最後に、熊倉氏が和食文化はピンチであり、和食と中核をなす「だし」の良さをどう継承するのかユネスコ無形文化遺産化への取組を契機にあらゆる人が考えるようにしたいとまとめられた。
京阪の外食での日本料理文化を中心にシンポジウムは進んだ。きちんとした日本料理というと高級というイメージが強いが、和食文化の粋を極め、和食文化の継承の柱であるのは間違いない。あたりまえだが料理人は和食文化の重要な担い手なのだ。大阪、京都のそれを食べ比べて違いを感じ、豊かな和食文化に想いをはせる機会を持つことも大切だと感じた1日だった。<了>