Washoku 「和食」文化の保護・継承活動の報告コーナー

第1部文化財行政の在り方文化財行政の現状・課題・方向性

2014年03月03日(月)

講師: 印南 敏秀

REPORT

印南 敏秀 氏愛知大学綜合郷土研究所所長、愛知大学地域政策学部教授、民俗学者

和食文化の保護・継承のための文化財の利用について、私が最初に携わったのは静岡茶の手もみ技術の保存でした。これは既に県の無形文化財に指定されていましたが、個人の指定でしたから亡くなると、そのつど追加指定していました。今は全体的に高齢化が進んでいたため、国で新しく設けた民俗技術という枠組で、手もみ技術を県の無形民俗文化財に切り替えました。個人ではなく保存会という団体で指定したのです。

和食文化の文化財化による保護・継承は、京料理のような場合は料理人を無形文化財に指定するのがふさわしいと思います。手もみ茶のような特産地に伝わる民俗技術は、無形民俗文化財として保存会で保護・継承するのがふさわしいと思ったのです。

次は、地域の食文化の地域の人々による保護・継承についてです。以前、佐久間町(現・浜松市)の山村生活にかかわる民具調査を依頼されたことがありました。山間地域特有の山仕事や筏仕事、焼畑などの生産用具、さらには衣食住や年中行事の用具でした。まず民具を整理して目録を作成して、個々の用具の情報について聞きとり調査をしました。調査が終わったので指定されたと思っていましたが、未指定のままになっていました。民俗文化財の場合は、とかく民俗芸能などに注目が集まり、民具など整理や調査に手がかかる有形民俗文化財は後回しにされることが多いのです。さらに民具は広い保存場所が必要で、今は全国的に非常に厳しい状況が続き、廃棄される民具すら見られます。

さらに未指定だった理由として、県指定の有形民俗文化財がないこともわかってきました。そこで、静岡県内における民具の所蔵者と所蔵内容等の基礎調査をしました。その結果、佐久間町に収蔵されている731点の民具は、山村生活を広く理解する上で類例のない貴重なものであることがあきらかになりました。そこで焼畑での生産から食文化にいたる山村民具を一括して、県の有形民俗文化財として指定したのです。うれしいことに指定後すぐに新しい場所で展示され、保存されることになったのです。

静岡市の大井川上流部の井川の氏神祭りに、神饌としてヤマメずしがつくられる。山村における重要な食材である川魚のヤマメと焼畑のアワを使った供物で、川魚としては珍しいナレズシとして評価され県の無形民俗文化財に指定されていました。ただし、ハレのヤマメずしだけが保護・

継承されても、ケの焼畑や雑穀食の文化が消えては民俗文化財としては片手落ちです。地域の伝統的な生活文化を体系的に調査し、焼畑や雑穀食の総体を有形・無形の両面から保護・継承できるような文化財の指定ができないかと、今考えているところです。そのことで山間の過疎地域である井川の地域活動に展開できればと願っているのです。