
『vesta』115号
「刺激的な味ー日本の辛い食べもの」
2019.07.12
特集アドバイザー 松島憲一 (信州大学学術研究院(農学系)准教授)
辛味は単なる刺激であって、五味ある味覚の内には入らないといわれている。確かに神経生理学的にも辛味だけは他の味とは異なるものかもしれないが、これを抜きにしては料理の味付けも、食文化を語るにも、全く物足りないものとなるであろう。唐辛子、山葵、大根に山椒などは、その風味と相まって非常に豊かな食文化を日本各地で形成してきており、これらの伝統的な辛味食文化は各地で再評価されてきている。さらに、近年に至ってはエスニック料理ブームや、激辛ブームを経て、日本人の辛味に対する嗜好も変化してきているといえよう。本特集は日本の食文化を辛味という側面から考える「辛口」の特集である。
<特集>
巻頭: とうがらし、しょうが、からし、わさび
Ⅰ.辛みの歴史
1.脇役としての辛味の変遷小史―江戸期から明治・大正期へ―/江原 絢子
2.辛味を求めて「激辛」へ/畑中 三応子
[TOPIC]カレーの辛さと日本人/森枝 卓士
Ⅱ.トウガラシとワサビ
1.日本における唐辛子とその食文化/松島 憲一
2.ワサビ食文化考/山根 京子
1.山形および近隣県の辛味/江頭 宏昌
[Column]秋田を代表する辛み大根、松館しぼり大根/椿 信一
[Column]唐辛子の伝統的な発酵調味料「かんずり」/野口 孝則
2.長野、岐阜の辛味 食文化と在来品種―唐辛子、わさび、辛味大根―/松島 憲一
3.近畿~滋賀の辛味「伊吹大根」、「たでずし」、「辛お講」、「唐辛子漬け」
/堀越 昌子
4.清らかに香り高きぶどう山椒―紀伊の国の山村からの贈りもの/湯崎 真梨子
5.旬の贈りもの、大分の「ゆずごしょう」/神谷 禎恵
6.南西諸島の唐辛子―酒や酢との相性―/山本 宗立
[TOPIC]辛味のサイエンス/松島 憲一
<連載>
幻の大衆魚:ニシンは山を越え、海を渡る
(最終回)「北欧ニシン文化と新料理運動の所在」/濵田 信吾
大食軒酩酊の食文化 (第45回)「駅弁」/石毛 直道
食情報の考現学(第1回)「現代日本人の食卓」/髙田 公理
食の時代考証(第1回)「食の設え 膳・テーブル・酒器」/青木 直己
食でひもとく浮世絵の楽しみ(第5回)/林 綾野
文献紹介 林采成著 『朝鮮半島―帝国の中の「食」経済史』/林 史樹