『vesta』文献紹介

横山 智

世界の発酵食をフィールドワークする

ライター 前川 健一
vesta 127号掲載

「フィールドワークは、文句なくおもしろくて、楽しいぞ!」と若者を世界に誘い出す

 東南アジアの食文化観察記録『東南アジアの日常茶飯』(弘文堂)を私が出したのは1988年だった。食文化の素人が書いた本だが、幸いにも何人かの研究者が編集部気付でコメントを送ってくれた。そのひとりが一面識もない石毛直道さんだった。発酵の研究者からは、「よくできた本だと思うが、発酵食品にまったく触れていないのはいかがなものか」という苦言があった。それはそうだが、私には到底手がつけられない分野だった。

 『世界の発酵食をフィールドワークする』を読んで、三十数年前の当時のことを思い出した。学者が食文化研究のためにフィールドワークをしている。いい時代になっている。この本は、様々な分野の研究者が「発酵」という一点にポイントを絞り、フィールドワークの研究結果を持ち寄ったものだ。何人もの研究者が寄せた論文集が成功する秘訣は、編者の力量と人格にある。「おもしろい本を作りたい」という熱意があり、大成功している。すこぶる楽しい本に出来上がった。

  近頃、「インターネット読書」というものをしている。本を読んでいてわからないモノが出てくると、画像検索をしたり、内容の確認をしたり、参考文献を探しネット書店に注文したりする。この本の目次もネットで調べることができるので、この書評では詳しい内容の紹介は省略している。

 世界の発酵食品に関して、初耳だったのが酒を主食にしているというネパールとエチオピアの報告(砂野唯)だ。私は酒を飲まないので、朝鮮のマッコリやヨーロッパのビールのことくらいは知っていたが、今も酒を主食にしている民族がいると知って検索すると、砂野氏の『酒を食べる』(昭和堂、2019)が出てきた。この本は知っていたが、高額図書で酒の本だから無視していたのだが、ネットでもある程度は情報を得られた。

 ラオスにあるという納豆のスイーツ(横山智)は白黒写真だからわかりにくい。ネットに情報があるかどうか試しに調べると、カラー写真つきで詳しい説明がある(「のう地」know-chi)。ほかの事項も、日本語で検索しても情報が出てくる時代だから、部外者でも好奇心があればかなり情報を集めることができる。

  この本は、フィールドワークは楽しいぞ、研究生活は楽しいぞという研究者たちの喜びであり、そのおもしろさを一般読者に知らせる努力を教えてくれる。この姿勢は、ほかの分野の研究者も見習った方がいい。

  寄稿者たちは、それぞれが好きな発酵食品をあげている。私ならミャンマーのタケノコのスープだ。今は袋入りのインスタント食品になって、日本でも手に入る。かくして、時代は変わった。