Productions 『vesta』掲載
おすすめの一冊

みんなでつくる「いただきます」―食から創る持続可能な社会

田村典江/クリストフ・D・D・ルプレヒト/スティーブン・R・マックグリービー 編著
vesta124号掲載

 おいしいものを腹一杯食べたい。これは私だけの願いであろうか。現代の日本のスーパーマーケットには、さまざまな場所で生産された多種類の食材が所狭しと並べられており、お金さえ出せば、手に入れることができる。そして私たちは毎日あまり深く考えることなく食材を選び、当たり前のように料理を作り、食べ続けている。

 ところで、私たちは、自分たちの食生活が地球全体の環境問題と深く結びつき、地球環境を取り返すことのできない状況に追い込んできたということをほとんど認識していない。本書では、現代の食にまつわる問題を様々な視点や事例から掘り下げ、食から持続可能な社会を創り出すことを構想している。

  序章は、現代の食の問題点を指摘する。食料は生産、加工、流通、小売、調理を経て私たちのお腹に入る。さらに、私たちは大量の食料を食べ残しており、それらは廃棄処分されている。序章では、このフードシステムがグローバル化した資本主義の下で(1)商品であること、(2)利潤追求の最優先、(3)生産地と消費地の乖離という3原則の上に成り立っており、世界各地で飢餓やフードロス、食用植物の多様性の喪失などが発生しているという不都合な真実を提示する。

  第1章は、食には「良い食」と「悪い食」があり、社会をより良い方向に変革するためには社会的想像力が有用であることを主張する。続く第2章では、食の未来に向けた話が展開される。キーワードは「持続可能性」「ウェルビーイング」「レジリエンス」であり、「良い食」の実現を目指す方法や考え方として、有機農業運動や都市農業、地域に根ざしたフードシステム、社会的連帯経済、食の主権などを紹介する。

  第3章では、各地の市民が参加して食の未来を考え、実践する事例として、京都市の「食と農の未来会議」、長野県小布施町の学校給食への取り組みなどを紹介している。そして最終章では大量生産・大量消費に支えられている現代の食生活は、地球と人間の両方の健康を損なうものであり、その解決には、社会経済システムの抜本的な改革が必要だと説いている(P175)。その上で、地域に密着した「多様な食や農のわざを生活に取り戻し、楽しみや喜びを分かち合う」実践が、私たちと食の関係性をより良い方に変えていくと主張する(P182)。

  食は人類と地球を救う。日々の食生活の変革を通して、持続可能な未来社会を創出することを考えるために、本書を一読することを強くお奨めする。

人間文化研究機構理事 岸上伸啓