『vesta』文献紹介

朝倉敏夫

食の人文学ノート-日韓比較の視点から-

立命館大学 食マネジメント学部教授 南直人
vesta 128号掲載

「お箸の国、日本」と「チョッカラクの国、韓国」

  ~「食」を通して異文化・自文化を知る楽しみ

 本書の執筆目的は、「おわりに」で記されているように、日本の食文化研究の成果について、関心を持つ韓国の人々に紹介することである。それと同時に、著者の、「食に関する人文学的研究の素養を高める」ために蓄積してきた知見を披露することも、本書の重要な内容を構成している。

 こうした目的に従って、本書は著者の勉強の成果をノートとしてまとめたという体裁をとっており、日本の食文化に関するさまざまな研究成果が幅広く紹介されているため、これから食文化を勉強してみようと考えている人にとっての格好の入門書となっている。面白いことに、紹介されている素材は書籍が中心だが、新聞記事やデジタル情報なども含まれており、スーパーの新聞折込チラシさえ利用されている。著者の貪欲ともいえる知的好奇心が示されていることが感じられる。

 内容を簡単に紹介しておこう。序章では、食にかかわる哲学や文学、考古学、美学などの分野の研究が幅広く触れられている。第1章の歴史学では、日本の食の歴史的変遷について重要な先行研究に基づいて検討され、第2章の地理学では日本列島の食の地域性がさまざまな事例に沿って紹介されている。第3章の民俗学では食に関連した儀礼や年中行事などが扱われており、食に関するオノマトペの日韓比較にも触れられている。第4章は、著者の専門である文化人類学で、叙述の中心は食の文化変容、具体的には日本に受容された外国の食、および韓国に受容された日本食となる。前者については朝鮮半島、西洋、中国の順に紹介され、さらにスシをはじめ世界に拡散した日本食にも言及されている。後者については韓国をフィールドとする著者の専門性が生かされており、オリジナリティが高い。その流れは終章の日韓の食文化比較の叙述においても存分に発揮されている。

 似ているようで異なる両国の食に関連したさまざまな事象を知ることで、読み終わったときには食を通じた異文化・自文化を学ぶ楽しさを味わうだろう。