『vesta』文献紹介

石毛直道

『大食軒酩酊の食文化』第1集

東京家政学院大学名誉教授 江原絢子
vesta 120号掲載

「大食軒酪酎」とは、酪酎先生こと、著者石毛直道氏である。本書は『vesta』に2008年以降、現在も連載されているエッセイのうち、2016年までの30作品を収めたものである。

「世界中の料理が食べられるのが、現在の日本であるが、現地へいって食べてみないこと には、酪酎の胃 袋は満足しない」とあるように、一般の暮らしでは、体験が難しいと思われる世界の国々の食べものもあり、日本の食べものの地域性やその由来、思わずクスリと笑 える食べものなど さまざまな食が語られている。

 私たちが口にすることが稀な、ウルシ、サソリを食べる話。ウルシの樹皮を入れた水で丸鶏を長時間煮て調味した韓国料理「 オッタク 」は、朝鮮王朝時代の医書では薬効ありとの ことだが、アレルギー反応が出る人もあるという。ちなみに『本草綱目』でも、樹皮や葉の解説にかなりの頁を割いている。サソリの素揚げは、「爆笑問題のニッポンの教養で放映 された。これも薬効があるようだが、爆笑問題の2人はなかなか手が出なかった。

 万博記念公園の早朝観蓮会で行われる「象鼻杯」の話。中国に由来するとのこと。蓮の葉に注がれた酒を多数の小穴のある長い茎を通して飲むと、「 かすかな香気が感じられ、清冽な味がする 」という。普段、朝酒はしない酪酎先生 もこの日は例外。しかも、その後、レストランで朝粥を食べた「ついでに」、冷や酒を注文してしまったそうだ。

 「うまいと思った料理は一品 もなかった」とは、入院中の食事。「 病院食は栄養学的には質の良い食事なのだろうが、おいしさについては配慮がかけるようだ 」とある。同様の体験をした者には身につまされる。病院食のミシュラン・ガイドのようなものをつくってほしいともある。最近は、おいしい病院食や有名シェフが作る病院食もあるがまだまだごくわずか。議論を広げたい。

 子どもの頃からのあこがれ、お子さまランチ。孫が4歳になるのを待ち、家族と共にデパートで昼食。ようやく注文できたお子さまランチを「独り占め」したのはもちろん著者である。また、公園で一人弁当を食べるとき、スズメやハトにもおすそ分けして小鳥と共食する話など、その風景が目に浮かぶ。

 酩酊先生はお料理作りが得意で、本書にも写真がある。表紙の写真は、「鯛焼きの甘酢あんかけ四川風」という料理。落語「ぜんざい公社」を改作した新作落語「マキシム・ド・ゼンザイ」に登場する料理を試作したもので、結構オツな味とのこと。江戸時代の百珍ものの料理を思い出す。随所に遊び心のあす本書は、食文化研究の大家を身近に感じさせる。