Symposium 特別公開講座

味の素食の文化センター設立30周年記念特別公開講座「江戸の食文化~江戸に学ぶ食の楽しみ~」

2019年12月11日(水)12:45 ~ 14:30

テーマ 江戸の食文化~江戸に学ぶ食の楽しみ~
会場 東京會舘 ウィステリア
主催 公益財団法人 味の素食の文化センター
後援 一般社団法人 和食文化国民会議
認証 「日本博」参画プロジェクト
江戸の食文化~江戸に学ぶ食の楽しみ~

趣旨

日本における庶民の食文化が花開いたと言われる江戸時代、人々はどのように暮らし、食を楽しんでいたのでしょう。料理書や書物、歌舞伎や錦絵の中の食をひもとき、江戸の社会と創意工夫や遊び心にあふれた当時の食生活をたどります。豊かな江戸の食のなかに、現在の、そしてこれからのよりよい食生活へのヒントを見いだしていきます。

登壇者

原田信男氏(国士舘大学教授*(講演当時)*現 京都府立大学客員教授)
堀越一寿氏(歌舞伎大向弥生会・副会長)
林綾野氏(キュレイター・アートライター)

日本博

REPORT

基調講演
「江戸の料理文化とその展開」原田信男氏

和食は、江戸時代に完成し庶民の間に広がった。中世から近世にかけ、自由に料理が楽しまれるようになったのは、社会的に安定し米社会が成立して人々が豊かになるとともに、物流(街道・河川網)が整備され、商業資本が現れて諸産業が展開したことによる。そして、諸国の名産が全国各地にあふれ、人々は行楽や外食を楽しむようになった。料理屋の発達、料理書の出版、発酵調味料(醤油・味噌・酢)の大量生産が、自由な料理の展開をもたらした。社会の上層に限定されず、江戸では庶民でもお金を出せばいつでも誰でも料理を味わい、その知識・技術も含めて楽しめる時代になった。
当時の様子が描かれた錦絵や料理本など豊富な資料を紹介いただき、日本の料理文化発展における江戸の重要性と、江戸の人々が食を楽しむ姿までもが実感できました。

原田信男氏

この動画は音声が流れます。

講演1
「歌舞伎と見る江戸の食」堀越一寿氏

歌舞伎に登場する様々な食。時代が進み、服装など暮らしの習慣は変わっても、食は今の時代にもリアリティを感じられるもの。芝居では、食べものに対する台詞や食べ方でどんな人物かが表現されており、今と違う食習慣や食に関する価値観の変化も見て取れる。芝居に出てくる食への共感をきっかけに、より芝居に親しみを感じ、当時の人とのつながりを感じることができる。
歌舞伎の大向うとして精通する演目を細部まで案内いただき、鮮やかな語り口と巧みなイラストが印象的な講演でした。どんな演目にどのような食が登場するのか、舞台の上で食べる姿や台詞にも注目して歌舞伎を観に行きたくなりました。

堀越一寿氏

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講演2
「江戸の味わいと錦絵の楽しみ」林綾野氏

絵を鑑賞するとき、日本画でも西洋絵画でも、季節を想像し、何をしているのか、ここはどこなのかを想像することによって、見えてくるものが変わってくる。当時の食文化を知った上で絵を見ることで、なぜその表情をしているのか、何が行われようとしているのか、静止画が動画に見えてくるような活き活きとした絵画体験ができる。食は、時代を経ても共通の感覚として絵と対峙するツールとなり、鑑賞を深めてくれる大きな可能性をもっている。
展覧会の企画・美術書の執筆などを手掛けるプロの立場から、どのように気持ちを込めて作品と向き合うかを実際の絵画や錦絵を用いて解説いただき、これからの絵の見方が変わってくるような気づきが得られる講演でした。

林綾野氏

公開講座では、料理本をもとに再現した江戸時代の寿司の試食も行われました。卵と海老の2種類、海老は車海老です。江戸時代には卵の方がより高価で、卵の寿司は車海老よりも高級品だったそうです。また、江戸時代の寿司は現在よりも大きく、1貫が車海老1匹分くらいありました。
寿司酢は当時使われていた赤酢を模して、甘酒を発酵したお酢を使用しました。江戸時代からの自然が残る皇居外苑の地で3年間貯蔵熟成してつくられたお酢のまろやかさで、とても柔らかい味わいの寿司になりました。

江戸のお寿司

会場では、講演に関連した錦絵と江戸時代の寿司を再現したレプリカ(いずれも味の素食の文化センター所蔵)が特別公開されました。

お寿司のレプリカ

講師について

原田信男(はらだのぶを)氏

国士舘大学教授*(講演当時)。日本文化論、日本生活文化史。史学博士。
食文化推進に関する私的懇談会委員、ウィーン大学客員教授、国際日本文化研究センター客員教授、放送大学客員教授などをつとめる。著書『江戸の料理史-料理本と料理屋』(中央公論社)、『歴史のなかの米と肉』(平凡社)など。(*現 京都府立大学客員教授)

堀越一寿(ほりこしかずひさ)氏

歌舞伎大向弥生会・副会長。歌舞伎の観劇数は年間100日以上、通算2500回を超える。歌舞伎の舞台に掛け声で声援を送る「大向う」の一人。人気ウェブサイト「All About」にて歌舞伎鑑賞法をガイドするなど、歌舞伎の普及活動も行っている。著書『歌舞伎四〇〇年の言葉 学ぶ・演じる・育てる』(芸術新聞社)、『大向うとゆく平成歌舞伎見物』(PHPエル新書・ペンネームの樽屋壽助名義)など。

林綾野(はやしあやの)氏

キュレイター・アートライター。美術館での展覧会企画、絵画鑑賞のワークショップ、美術書の企画や執筆を手がける。新しい美術作品との出会いを提案するために画家の芸術性と合わせてその人柄や生活環境、食への趣向などを研究。著書『画家の食卓』(講談社)、『浮世絵に見る江戸の食卓』(美術出版社)、『ぼくはフィンセント・ファン・ゴッホ』(講談社)など。