『vesta』文献紹介

魚柄 仁之助著

食育のウソとホント―捏造される「和食の伝統」

ジャーナリスト 岩田三代
vesta 114号掲載

 2005年に食育基本法が制定され、2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されるなど食への関心が高まっている。しかし、その中で根拠のない言説や怪しい「伝統」賛美が横行しているのではないか。食文化研究家の著者が、歴史資料などをもとにこうした傾向に警鐘を鳴らし、ウソとホントを見極めようと呼びかけた一冊。 著者によれば、食育の基本は「本当のこと=事実」を知ること。そして食育のホントとは歴史的事実と科学的事実のこと。そうした目で現代を眺めると、悪意なき捏造や思い込みによるウソに満ちている。たとえば第3章〈伝統〉のウソを伝える食育が俎上にあげるのは、かつてマグロはトロより赤身が好まれていたとの説。昔と今では人の好みが変わったというものだ。だが、大正4年12月号の月刊誌「料理の友」には大トロが「あぶらのお寿司」として珍重されている。昔の人がトロや大トロを食べなかったのは冷蔵や流通技術が発達しておらず、油が回って臭くなってしまったせい。口中でとろける味を好む人はいたと論じる。
 またクジラは日本の伝統食というが、それは一部の地方の人にとって。昭和初期に南氷洋捕鯨が始まるまで、多くの日本人にとってはなじみがなかった。日本食文化復権のスローガンとして使われる仏教用語の「身土不二」。実は昔から食分野で使われていたわけではなく、明治末期に陸軍軍医・石塚左玄が使ったのが最初。「日本人が昔から食べ、なじんできた白菜などの伝統食」なんて文章はオカシイ。白菜が日本に入ってきたのは江戸末期、人々が食べ始めたのは明治末期なのだから――など巷にあふれる「伝統」のにいい加減さを厳しく糾弾。
   日本人の主食と言われる米にしても、稲作が始まった時代から明治にいたるまで、日常の主食として食べていたのは全人口の10%未満。農民の日常食は雑穀やイモ類だったことは歴史の常識だ。受け売り、又聞き、伝聞の拡散が不確かな「常識」を生み出していると主張する。
 〈生きのびる〉ための食育から〈食べる〉を考える食育まで全5章。少々くだけすぎの感もあるが、各章が短いエッセーで構成されており読みやすい。旬にこだわり冷蔵庫で食材を腐らせる矛盾や、料理教室の活用法など実践的な食育情報もちりばめられている。鮮度崇拝に偏らず、保存食を活用し「食べヂカラ」をあげようといった主張には説得力がある。インターネット全盛の時代、情報はあっという間に拡散していく。だからこそ、ウソに踊らされない冷静さが必要だ。