『vesta』文献紹介

庭乃桃

『おいしく世界史』 柏書房

梅花女子大学 東四柳祥子
vesta 110号掲載

旅の楽しみの一つに、ご当地の伝統料理や郷土料理との出会いがある。悠久の歴史の妙味にふれる時間もまた豊かな旅の醍醐味といえるだろう。しかも昨今は、ガイドブックのみならず、伝統の味を紐解くテレビ番組や出版物の特集も増加傾向にあり、異国の食物史や食文化を味わうことへの関心も日々高まりをみせている。
そんな中、ヨーロッパに古くより伝わる食材や料理の謎を解き明かしてくれる素敵な書籍が上梓された。料理・食文化研究家の庭乃桃氏による『おいしく世界史』である。
本書の構成は、「第1章 ローマとゲルマンの遺産 南のオリーブオイルと北のバター」、「第2章 イエローとグリーンの春 春の祭りとイースター(復活祭)」、「第3章 太陽王が愛した「貴婦人の指先」 野菜の女王アスパラガス」、「第4章 土地の恵みと人の知恵 チーズの王様 パルミジャーノ・レッジャーノ」、「第5章 庭に育つハーブ、海を渡るスパイス」、「第6章 不思議に満ちる夜 ヨーロッパのハロウィーン」、「第7章 「黄金のリンゴ」と「大地のリンゴ」 トマトとじゃがいものヨーロッパ」、「終章 冬の風景 クリスマスからカーニヴァル(謝肉祭)へ」の8章仕立てで、具体的な食材や料理にまつわる歴史的なエピソードを織り込みながら、ヨーロッパ人の生活に根付いた食の伝統を紐解いている。また各章の終わりには、それぞれの章のトピックと関わりが深い食材を使用した欧州料理のレシピが紹介され、実際にヨーロッパを「食べて、感じて」もらうことを願う著者の想いも込められている。
 本書の魅力は、なんといっても多彩な史資料に基づく歴史的事実を丹念に紐解きながら、各国に普及した食材や料理、食習慣の系譜を詳述しているところにある。バター、オリーブオイル、チーズ、ハーブ、スパイス、ホワイトアスパラガス、トマト、ジャガイモといったヨーロッパの人々にとって欠かせない食材たちの定着のドラマが軽快に解説されるとともに、イースター、ハロウィーン、クリスマスなどの伝統行事にちなんだ名物メニューの国際比較文化論が絶妙に展開する。
食を通じて、季節を感じる喜びは、日本に限らず、世界各国に共通する。自然の恵みに感謝し、旬の食材で調理した伝統料理を共有する時間が如何に大切であるかを、本書は優しい口調で語りかけてくれる。
歴史といえば、抵抗を感じてしまう若い読者層も多いといわれるが、食文化研究を志す学生たちにこそ、是非一読をおすすめしたい好著である。


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