食文化ノ・ミカタ Food Culture's Eye

明治日本舶来文化洋食の曙:秋山徳蔵とフランス料理

黒船の来航は日本の食文化にも巨大な衝撃を与えました。明治時代の代名詞にもなっている牛鍋は、江戸時代には忌避されていた肉食が一般に広まったことの証拠でもあります。その後、肉食は日本と西洋の食文化の交流の中で誕生した「洋食」の主役食材となるのですが...そもそも「洋食」とはなんでしょう?今週からは明治時代にフランスに留学、のちに「天皇の料理番」と呼ばれた秋山徳蔵に登場してもらい、食文化の世界にどうやって浸かるか、そのスターターとなってもらいましょう。

秋山徳蔵の著作.JPG当ライブラリー所蔵の秋山徳蔵の著作からいくつか選んでならべたもの。

ここにメニューカード、雑誌の特集記事などを加えると大変な量になる。

食文化の研究・調査の準備

今年は明治150年ということもあって、明治時代の生活に多くの関心が集まっています。そこで「洋食について知りたい」と仮定して、食文化を学ぶにあたって知っておくと便利なことをいくつか示したいと思います。

自分の好奇心はどっちを向いている?

何かを調べようと思ったら、自分がなにを知りたいのかをハッキリさせたほうがいいです。余計な情報は省けますし、ネットや書籍、DVDなどから「当てになるヒト、モノ、場所」を引き出す力もついてくるからです。しかし自分のやりたいこと、楽しいこと、案外ひとはわからないものです。それを知るためには特別な準備がいります。

年表で気になる時代、国、場所、料理、人物をしぼる

歴史家のある先生によると、ふわっとした自分の好奇心をハッキリさせたいとき、適当な年表をコピーするんだそうです。それこそ中高の教科書、専門書、果てはネット上で配布されているフリーの年表でもなんでもいい。それを横に置いて適当な資料をながめる。そして自分が気になったこと・面白そうだなと思ったところを見つけたら余白にメモする、そのページだけコピーして年表に張り付ける、こうすると研究・調査したいフィールドが1000年・100年・10年単位で狭まっていき、具体的になっていきます。

年表.jpg

vesta91号「1962年の食」より

4ページにわたる年表。こうした年表をコピーし、気になることを追記していく。

年表は小説や物語と違ってストーリーや結論といった読む人に対する誘導装置がありません。

そのために読者よりも年表に書き込む本人に訴えかけるものが多くなるのです。

なぜ秋山徳蔵がナビゲーターとしてふさわしいのか?①

A:ドラマの主人公になっている。

特定の時代の空気、雰囲気を知りたいとき、一番手っ取り早いのはその時代を自分の代わりに眺めてくれる主人公を決めること。

具体的には司馬遼太郎や藤沢周平、池波正太郎の小説やテレビドラマを見て江戸時代といえばこんな感じ、といったイメージをもってもらうようなことです。このときは厳密な歴史考証、史実うんぬんはわきにおいてしまってかまいません。大河ドラマなどはプロの歴史家の監修を受けるようになりましたし、歴史の研究は日進月歩です。素直にその成果をありがたく、いただいて自分の関心を深めていきましょう。

A:後世に巨大な影響力を持つ財産「フランス料理全書」を書いたから

フランス料理全書 (2).JPG フランス料理全書:秋山徳蔵が帰国後に発表したフランス料理の実践書。実質はエスコフィエのLE GUIDE CULINAIREを秋山が翻訳、解題を付したもの。堀口大學の訳詩集「月下の一群」以降、日本語が大きく変わったのと同じく、この本以降・以前と分けられるほどに日本の西洋料理、シェフたち影響をあたえました。

 秋山以前にも多くの才能あふれる日本人シェフは(例えば日本での師匠の一人、西尾益吉など)いました。しかし、彼らはあくまですぐれた個人、名人であって、その影響力は、直接の面識がなければ、いっしょに仕事をしなければ・・・とごくごく限られた範囲の、条件付きのものだったのです。この本の出版はその限界を壊し、全国の才能あるシェフの卵たちを魅了したのです。帝国ホテルの料理長として有名な村上信夫もその一人。神田神保町で当時の価格で3千円のセリに勝ってようやくこの本を手に入れたそうな。

そしてフランス料理の新約聖書ともいわれる本書を選ぶあたり、秋山は目の付け所が尋常ではありません。フランスの一流レストランで修業し、認められた彼だからこそできた業績でしょう。

ちなみに秋山によればエスコフィエに翻訳の許しをもらいにいった際の彼の印象は「親切そうで立派な人でしたよ」とのこと。

フランス料理の学び方 物質と歴史の巻末に収録された、著者の辻静雄と徳蔵の対談でこの話題が出てきます。

この浩瀚な書籍を秋山は3回増補・改訂しています。フランス語にはカタカナがふってあります。この本の版のうち、昭和30年の上下2冊のバージョンは1000部限定販売でした。なかなか入手の難しい本ですので是非ご覧になってください。

国立国会図書館デジタルコレクションより「初版仏蘭西料理全書

PAGE
TOP