Washoku 「和食」文化の保護・継承活動の報告コーナー

第1部文化財行政の在り方滋賀県の文化財行政について

2014年03月03日(月)

講師:長谷川 嘉和

REPORT

長谷川 嘉和 氏元滋賀県教育委員会文化財保護課参事(技術吏員)、滋賀県文化財保護審議会委員

私は約30年間、民俗文化財の保護に携わりました。今のように地方の財政事情が逼迫する前の平成6年に、当時の知事が「新しい淡海文化の創造」というのを掲げて、それに関係する予算を要求することを命じられました。そこで私が伝統食文化調査というのを出したところ、それに予算がつき、3カ年間、滋賀県内の63地点で伝統食について調査することになったのです。調査対象としたのは、第2次世界大戦や戦後に入ってきた欧米型の食による影響を受ける前の、昭和10年代前後までの時期の食生活です。
その結果、伝統的な佃煮や漬物をつくって食べるのは高齢者ばかりでした。あるおばあさんに聞くと「若夫婦と孫はお肉とかそういういわゆる洋風のものばっかり食べて、私らがつくったのは食べてくれへんのや」というお話でした。伝統食というのは祖先以来、何度もつくり方を工夫してきたものです。漁業ですと同じ魚が、農業ですと同じ野菜が、それぞれ一時にどっと収穫できてしまいます。それを、調理方法を変えて、もしくは保存して食べる生活の知恵が結晶した伝統食を、何とか残さないといけないと考えました。
例えば、ホンモロコをなれずしに漬けるという調理法があります。私は文化財保護課だったものですから、魚をとり、野菜を栽培し、それらを調理して食べるという食習俗を文化財にするしかないと考えました。しかし、家々によってつくり方も違い、味の嗜好も違いますので、つくり方を指定するのではなくて、自らつくって食べるという食習俗を選択して、それを記録に残して保存するという文化財にしました。これを報道関係に発表すると大変な反響がありました。「食が文化財になった」ということで1面にカラー写真で報道してくれる新聞もありました。
それから、これらを子どもたちに伝えるために、高校の家庭科や中学校の技術家庭科の先生を対象に、伝統食の調理講習会というのを催しました。会場は滋賀大学の教育学部を借り、大学の先生に講師になってもらい、2年にわたって講義と調理実習を行ったのです。
滋賀の食文化財として、具体的には5つの例を挙げました。1つは湖魚のなれずし。それから湖魚の佃煮、これは川魚を佃煮にして食べるもの。それから、漬物の代表として日野菜漬。お菓子としては、お遣い物にすることもあるでっちようかん。そして、琵琶湖固有種のビワマスを炊き込みご飯にしたアメノイオご飯。これだけは商品化されていませんでしたが、文化財にしてから、非常に広まるようになりました。
今では滋賀の食文化財の幾つかのものが実際に調理講習会で使われるという形で、かなり定着しています。文化財保護課だけの仕事ではなくて、水産課とか農産普及課とかほかのところの事業でもこの食文化財を取り上げて講習会を開くとかいうふうに、県内全体に広まった活動になってきています。
  • 湖魚のなれずし(モロコ鮓の漬け込み)

  • 湖魚の佃煮(アユの佃煮)

  • 日野菜漬

  • 丁稚羊羹(でっちようかん)

  • アメノイオ御飯①

  • アメノイオ御飯②