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世界の麵の文化史1987-1990.12

朝鮮半島の麵
ネンミョンとクッス
朝鮮半島の人々は、世界の中でも麵をよく食べる日本人が感心するくらい麵をよく食べる。客をもてなすときや行事食や宴会にも麵がよくでてくるほか、かつての伝統的な食事法では昼に麵を主体にした簡単な食事をあらわす「麵(ミョン)床(サン)」という言葉があるほどだ。
朝鮮半島で麵をあらわす言葉には、麵(ミョン)とクッス(掬水)のふたつがあり、麵料理の種類などに応じての使い分けはあるものの、麵をさす同義語と考えて問題ない。あたたかいスープで食べる料理法を「温麵(オンミヨン)」、冷たくして食べるのを「冷麵(ネンミヨン)」という。古典中国語では麵(コムギ粉)をこねてつくる食品を餅とよぶのに対して、朝鮮半島では乾いたものを餅といい、湿ったものを麵とよぶ。乾いたものとはコシキやセイロで蒸したもので、湿ったものとは湯で煮たものであるという。




平壌冷麵(ピヨンヤンネンミヨン)
1849年に成立した『東国歳時記』は、洪錫謨(こうしゃくぼ)によって著された年中行事や風俗を記録した李朝末期の書である。この書の11月の項に、平壌のある平安道の冷麵がおいしいと次のように記されている。冬の時食として、蕎麦麵に菁葅(大根漬)や菘葅(白菜漬)を入れ、そのうえに豚肉を和えたものを冷麵という。また蕎麦麵に雑菜(五目野菜)、梨、牛肉、ゴマ油、醤油などをいれて混ぜ合わせたものを、骨董麵(コルトンミヨン)という。冷麵は、関西地方(朝鮮半島西北部)のものがもっとも良い。
平壌冷麵に使用するのは、ソバ粉を主原料にした押しだし麵でソバ粉にジャガイモ澱粉を混ぜて固くこね、それを押しだし機にいれて熱湯のなかに押しだしてから、冷水でもみ洗いして、食器に盛り具を飾った後にスープをかける。

咸興冷麵(ハムフムネンミヨン)
咸興は、北朝鮮の咸鏡(かんきょう)南道(なんどう)の都市の名である。朝鮮戦争のあと、ソウルに住み着いた咸興出身者たちが郷土料理の冷麵の専門店をひらき,その痛烈な味が評判となった。いまでは,咸興冷麵を食べさせる店が,ソウルには何軒もある。
朝鮮半島の麵の食べ方を大別すると,温麵,冷麵のほかに,ビビンクッス(あるいはビビンネンミヨン)の3つがあげられる。ビビンは「かき混ぜる」,クッスは「麵」なので,「かき混ぜ麵」ということになる。咸興冷麵は,ビビンクッスで食べる。汁気なしで,コチュジャン(トウガラシ味噌),粉トウガラシその他の調味料で具を和えたものを麵のうえにおき,具と麵をかき混ぜて食べる。非常に辛味がつよいのが特徴である。
カルクッス
日本人にとって朝鮮半島の麵といえば,すぐに冷麵が思い出されるが,韓国ではカルクッスという「切り麵」もさかんに食べられる。つくり方は,日本の手打ちうどんと全く同じである。コムギ粉に塩を混ぜてこね,麵棒でのばしてから,包丁切りしたものがカルクッスである。冷麵風にして食べないこともないが,ほとんどの場合はあたたかいスープで食べる。肉のスープのほかに,煮干し(いりこ)のだしに醤油味をつけた日本人向きのスープで食べさせるカルクッスも多いが,煮干のだしは,日本の植民地時代に導入されたものだといわれている。

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