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中国食文化調査
1982.6-1983.3
      上海
南饅頭店

上海は中国最大の都市で、町中が人で溢れています。
          中でもいちばんにぎやかな盛り場が豫園<ユーユアン>です。
          人ばかりでなく商店や飲食店もひしめきあっていて、ここでしか食べられない名物の点心類を売り物にする店が多くあります。
          その中に、南翔饅頭<ナンシアンマントウ>店という小籠包<シアオロンパオ>28分フェン(34円)と蛋絲湯<タンスータン>3分(4円)のみを出す行列のできる人気店があります。
          小籠包はセイロでふかした肉饅頭で、蛋絲湯は口直しに飲むスープです。
          一日平均2500客分の饅頭がつくられるといい、一つのセイロに8個の小籠包が並べられているので、一日2万個の饅頭がすべて手作りでつくられていることになります。
        
中国で饅頭といったら、餡の入らない蒸しパンのことで、餡を包んだものは包子パオツといいます。
          この店の小籠包にはブタの挽肉の餡とスープが入っていて、不用意にかぶりつくと火傷や顔が汁だらけになることがあるため、まず、饅頭の端を噛み切って、なかの汁をすすってから噛みしめるのが正しい食べ方だといいます。
          セイロの底は、細い草を編んでつくられていて、饅頭の皮が底にくっついて汁が流れ出すことがないように配慮されています。
          ブタの皮を煮て醤油、塩、砂糖、酢、味の素で味付けしたものと、脂肪分の少ないブタの腿肉のミンチを混ぜたものが、小籠包の餡です。
          ブタの皮に含まれるゼラチン質の煮こごりが餡に練り込んであり、セイロで蒸すと煮こごりが溶けてスープを包み込んだ饅頭ができあがります。
          蛋絲湯は薄い味付けのニワトリだしの澄し汁に薄焼き卵の糸切りを2〜3本浮かせただけのものです。
餛飩と臭腐干
別の点心店には餛飩<フンドウン>と牛肉麵<ニウロウミエン>というメニューがありました。
          餛飩こんとんという名の料理が日本では平安時代の文書にあらわれていて、それがウドンの先祖にあたるという説もありますが、上海の餛飩とは雲呑わんたんのことを指しています。
          日本のようにひき肉を包んだ皮のまわりがヒラヒラとしていることはなく、皮全部を使って大きな肉の包みをつくっています。
          皮にくるんだ挽肉が牛肉なら、スープも塩気のきついカレー仕立ての牛肉スープです。
          牛肉麵は手打ちウドンに牛肉のカレースープをかけたものです。
          大鍋に油をたぎらせてカビを生やした豆腐を揚げる臭腐干<チョウフーガン>という料理があります。
          臭豆腐<チョウトウフー>という、青カビが生えて細毛がモヤモヤした豆腐を揚げており、外見は日本の厚揚げと変わりません。
          豆腐のタンパク質がカビの作用でアミノ酸に分解されているため、こくのあるうま味と独特の臭気があります。

高級宴席料理
          
          
          上海料理は滬菜<フーツァイ>といいます。
          滬とは上海市を流れる黄浦江の別名です。1840年のアヘン戦争後に外国との交易港となり、富と物流の中心地となったこの都市に、「魚米之郷」とよばれる豊かな江南地方、揚子江沿いの蘇州(そしゅう)、無錫(むしゃく)、揚州(ようしゅうや)、浙江省の杭州(こうしゅう)や寧波ニンポーなどで発達した料理が集まり交流して、上海料理ができています。
          最高の上海料理として、上海大厦<シャンハイターシア>における宴席料理があります。
          中国の平均的サラリーマンの月給が60元前後なのに対し、一卓450元の高級料理です。
          盛り付けには清代につくられた名器を使用し、みごとな飾りつけの料理が並びます。
          メニューは、花魚冷盤<フアユーロンパン>(蓮の花と金魚をかたどった前菜)、烤蛤蜊<カオガーリー>(二枚貝のグラタン)、龍鬚桂魚<ロンシユグイユー>(鱖魚の炒めもの)など13品で、奇をてらった珍奇な材料はなく、徹底的に厳選した新鮮な材料が使われています。
          全体にあっさりとした上品な味付けで、醤油で色づいた料理はほとんどなく、あわい塩味で香辛料もあまり感じさせません。
          材料そのものの持ち味を生かした料理が重んじられていることがわかります。