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中国食文化調査

1982.6-1983.3

鎮江

酢と金山寺味噌

鎮江は酢(中国では醋)の名産地として知られています。
現在は鎮江恒順醬醋廠<ヂエンチアンホンシユンチアンツーチヤン>という、1840年に開業した工場が「鎮江香醋<ヂエンチアンシアンツー>」という製品をつくり、中国各地ばかりでなく、海外にまで鎮江の酢を輸出しています。
瓶のレッテルには「鎮江香醋是有色香酸醇濃、五味調和之特点、馳名中外」と記されており、これは鎮江の酢は色、香り、酸味、こく、濃さの五味が調和した特徴をもち、国の内外で名声を博している、という謳い文句です。
日本の酢は、色は淡く、サラサラとした液体でさわやかな酸味ではあるが、ツンとする刺激的な香りを持っているのに対して、鎮江の酢は醤油と見まがうほどの赤褐色をしたトロリとした液体で、黒砂糖にも似た甘い香りで、まろやかな酸味をしています。
この酢の味の違いが、中国のまろやかでほんのりとした酸味の酢豚と、日本の酸っぱい酢豚の味の違いに影響しています。

この工場では金山牌<チンシヤンパイ>の醬も製造しています。
醬には大豆製のものと、ソラマメを原料としたものがあり、夏期には蚕豆辣?というソラマメ製のものしかありません。
ソラマメを発酵させてペースト状にした味噌のなかにトウガラシが混ぜられています。
ピリピリした辛みがあり、味噌汁をつくる習慣がない中国では煮物や炒め物の調味料として使われています。
トウガラシを入れた大豆製の?は、金山寺味噌ということになります。
金山牌とは、鎮江郊外にある名刹金山寺の名をとったブランド名です。
この工場が開業したとき、金山寺のお坊さんから、寺に伝わる?のつくりかたを習ったことから命名されたといわれています。

市場

中国の市場が最もにぎわうのは、早朝、太陽があがったばかりの時です。
鎮江に限らず、一般に中国の市場は二つの部分から構成されています。
国営や集団経営によって運営される公営の店と、農民が副業として、人民公社の集団経済にとらわれず、自由に使える土地である自留地の菜園でつくった野菜などを持ち寄って売る自由市場です。
立派な店舗や屋根つきの常設の売り台がある公的な市場に対して、自由市場は仮設の売り台やゴザを敷いて商品を並べています。
公定値段が一定している公営の店の方が安いのですが、品質管理が悪く、サービス精神の行き届かない点があります。
自由市場の方は、農民が手塩にかけた作物を大事に持ってきたものなので鮮度はよいのですが、値段は一定せず、売り手と買い手の駆け引きが必要です。
鎮江の自由市場ではニワトリやアヒルは生きたまま売ります。
また、マコモ(菱白チアオパイ)という、マコモの葉鞘の部分に黒穂菌が作用して肥大した江南の名物が売られているのが目立ちます。
シャキシャキした歯触りとほのかな甘味があり、料理ではタケノコと同様な用途に使われます。
また、揚子江のそばの市場だけあっていきのよい淡水魚が多く、タチウオの仲間の刀魚<タオユー>などが売られています。

三魚、三頭、一点

鎮江の名物料理はと問えば、「三魚、三頭、一点」という答えが返ってきます。
三魚とは、刀魚<タオユー>、?魚<フイユー>、?魚<シーユー>の三種類の魚の料理です。
三頭とは、カニの肉やタマゴを混ぜた肉団子である蟹粉獅子頭<シエンフエンシーツトウ>、鎮江の?魚の頭の骨をとった中にカニ肉、中国ハム、トリ肉、シイタケ、タケノコなどをつめてスープ煮にした拆檜?魚頭<チヤイフイリエンユートウ>、ブタの頭の煮込みである紅焼?猪頭<ホンシヤオパーヂユートウ>の、頭という文字が付く三種の料理のことです。
一点とは、秋の脂ののったカニ肉を包んだ包子で、蒸すとカニの脂が溶けてスープを包んだ肉饅頭の状態になる鎮江名物の点心、蟹黄湯包<シエンフアンタンパオ>をさします。

これらの名物料理の中でも絶品は鰣魚を蒸したもので、その味を賛美する詩文が多く存在しています。
鰣魚はウロコをはがさずに料理するのが常法で、鰣魚そのものの味を楽しめる清蒸鰣魚<チンジョンシーユー>に限ります。
これは鰣魚の上に水晶肴肉<シユイチンヤオロウ>をのせて蒸した名物料理です。
水晶肴肉とは鎮江名物の塩漬けのブタ肉で、300年以上の歴史を持つものです。
塩漬けした肉を煮て味付けした後、煮汁と一緒に器に入れて重しをかけて固めます。
ブタの皮から出たゼラチン質の煮こごりが肉塊のあいだを埋め、半透明になった部分が水晶の玉に似ていることから名がつけられました。

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