画面の文字を拾うと下記の通りである。
役者名：右図「坂東簑助、市川平次郎、市川米蔵、松本幸四郎、坂東三津五郎、中山富三郎、市川栗蔵、坂東大五郎、松本虎蔵、吾妻藤蔵、市川芳三郎、市川團兵衛」中図：「市川宗三郎（人物は右図）、沢村金平、沢村源平、岩井粂三郎、瀬川多門、市川團十郎（半分切れ）、坂東大吉、沢村田之助、市川團之助、嵐新平、坂東熊平、市川成蔵、沢村哥五郎、市山富士蔵、嵐比五郎」左図：「沢村四郎五郎、嵐龍蔵、（半分）、市川傳蔵、沢村宗十郎、瀬川路考、沢村熊蔵、市川純五郎、市川常十郎、沢村宗太郎、尾上雷助、沢村紀次」
左図左上方「狂言古今稀なる 大入大繁昌ニ付来ル 於亭大當リ振舞仕 候之間当日打出し後 〔御〕残可被下候以上」
左図左下方「一雄齋國貞画 あたりふるまひの樂屋あらましを入御覧候此図上にもれたる役者は追々後へんに差出し御目にかけ可申候 はんもと西村永壽堂」
部屋の名標
右図「坂東三津五郎」「市川團十郎」「市川宗三郎」「市川○蔵」「嵐龍蔵」「市○○十郎」
中図「沢村金平」
その他の文字
右図：幸四郎の扇「顔見せや松にも雪の銀世界 錦升」
お札の中でも「成田山新勝寺」がはっきり読める。
中図：神前の提燈に狂言作者名「靏屋南北、清水正七、○○喜三郎、柳田屋助、福森久助、松井孝三、篠田金治、○山為助、○○周蔵」
左図：貼紙「一二階へ女中方堅御無用 ○ 月 ○ 日 頭取」
※当り振舞(ぶるまい)とは、興行が成功して利益が上がった時、太夫元が俳優や関係者を招待して慰労の宴を張ることで、通常楽屋の三階で催された。その盛況を描いた図。
※この図の年代は
１．四世沢村宗十郎は、文化8年11月に襲名し、9年12月に没する。
２．図の顔ぶれが市村座に出勤するのは、文化8年11月から9年10月までの１年。
３．図中に「暫(しばらく)」の大太刀と衣裳が見え、扇面にも「顔見世や」の句がある。
上記の条件から文化8年の顔見世（即ち11月）と考証される。