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モンゴル乳製品調査

1996.7-8

赤い食べ物

『白い食べ物』とよばれる乳製品とともにモンゴルの食生活を支えているのは『赤い食べ物』とよばれる肉類です。
あるアイルにおける一年間の屠る家畜の数はウシとウマを一頭ずつ、およびヒツジやヤギを合わせて10頭以内で、これはモンゴル国の牧民たちの平均的な肉消費量といえます。
モンゴル人は、肉の中で最もおいしいのはヒツジであると誰もが答えます。
モンゴルのヒツジは天然の草だけを健康的に食べているため、嫌な臭いは一切なく、香草を料理に用いる必要もありません。
男性がヒツジの解体を行い、女性は内臓の清掃を行います。
そして調理がなされ、まず食卓に出されるのは塩茹でにした内臓料理です。
洗面器に山盛りにされた内臓を少しずつナイフで切り取って食べます。
小腸に血を詰めたソーセージもゆでられます。
ただし、肝臓だけは焼いて食べます。
こうした内臓料理は必ず周りの家におすそ分けし、客人も家の人も全員が口にします。
つづいて骨付き肉がゆであがります。
主人がシャンズとよばれる部位の皮の部分を切り取ってかまどの神に捧げ、それから客にもてなされます。
少量の塩を加えてゆでてあり、脂肪の風味がほどよく溶け込んでいる料理です。

ヒツジ肉を石蒸し焼きにした「ホルホック」という料理もあります。
本来はヒツジの皮を鍋代わりに使った料理でしたが、現在ではアルミの牛乳缶を圧力鍋のように用いて作ります。
牛乳缶に少量の水や塩を入れ、小分けにした肉片と焼石を交互にいれていきます。
牛乳缶を外側からバーナーなどで加熱し、缶を揺すって火のまわりがよくなるように努めながら、ときどき蒸気を抜きます。
肉には焦げ目もついているから単に塩ゆでするよりもおいしく、脂肪が溶け出した汁もおいしい料理です。
また、「ボードック」という料理もあります。
これは、ヤギの首から下の皮をうまく筒状にはいで、その中に解体した肉と焼けた石を詰め戻して、外側から火で焼く料理です。
ホルホックと同様にほどよい焦げ目とほどよい汁気を備えています。
ボードックには、タルバガンという一般に草原モルモットといわれるげっ歯類を用いることもあります。
毎年7月下旬に狩猟が解禁される夏の赤い食べ物です。

また、モンゴルでは乾し肉を使います。
この肉は、冬にウシを殺し、太い紐状にして乾燥させ凍らせます。
春になると凍った肉がとけて中の水分が抜けてきます。
今度はさらに細くして乾燥させます。
このように、塩を使わずに乾燥させた乾し肉を一般に「ボルツ」といい、うどんなどに入れて使います。
冷凍と乾燥の二つの作用によってサクサクとした食感を持つ肉になります。

このような家畜に大きく依存した牧民たちの生活の基本は、春の出産とそれに続く夏の豊富な搾乳、そしてその乳を利用した加工という一連の流れとともにあります。
そうした牧畜サイクルに応じて、草原における食卓は最も簡素な春から、「白い食べ物」であるさまざまな乳製品が展開する夏を迎え、「赤い食べ物」である肉製品が食卓を飾る冬へと変化します。
一年を通じて乳製品が食されてはいるものの、どのような種類がどれだけあるかというその質や量もまた、季節と共に変化し、そこにモンゴルならではの乳製品の風景が展開されています。

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