第1部文化財行政の在り方 「和食」文化の歴史的観点から

2014年03月03日(月)

講師: 原田 信男

REPORT

原田 信男 氏
国士舘大学21世紀アジア学部教授、歴史学者
 

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 食文化に関して、今後気をつけるべき問題点がどこにあるのかということを話します。
 食文化というのは、やはり「知識と技術の蓄積」だと思います。文化というのは非常に長い歴史の中で、先人の知恵と努力が蓄積されていくものですが、歴史という観点から考えた場合、もう一方で「選択」という形で捨てているものもあるわけです。我々は生きる上で、さまざまなものを選択しながら、さらに新しい文化を築いて生きているという流れがあるわけです。そのときに、捨てられるものとは一体何なのか。捨てられるものには当然、それなりの理由がある場合もあります。しかし、今日の非常にグローバル化の社会の中では、合理的なもの、あるいは効率的なものが選択されてしまいます。本来はもっと見直さなければならないものがあるのではないかというふうに考えています。
 例えば食材の問題で、先ほど話題に上がった「焼き畑」でなければできない作物、あるいは「焼き畑」でなければできない味、そういうものは間違いなくあります。特にカブ・大根系などでは、九州の方で糸巻大根というのを「焼き畑」でつくっていますが、そういったものもだんだんつくられなくなっていきます。
 また、山形県の米沢の付近に雪菜という野菜があります。これは非常につくるのが大変なのですが、これを生産する継承者がいなくなっているのです。雪菜漬けとして知られていて、好きな人は大好きなのですが、この雪菜を山形県の銀座にあるプラザで販売したところ、全く売れなかった。その理由は簡単で、レシピも何も添えていませんでしたし、そのおいしさも知られていない。だから、そういう伝統的な野菜みたいなものを残すということは、逆に言ったらそれに伴う調理法なども含めて伝えていく必要があります。
 これまで伝統野菜というと、その土地だけで生産され、消費されてきたわけですが、グローバル化が進む社会では、さまざまな工夫を凝らし全国展開していくことによって、むしろ生産者側が持続できるような、そういうシステムをつくっていく必要があるのではないでしょうか。
 また、調味料ですが、江戸時代の料理本には煎り酒という調味料が出てきます。ところがこれは悲しいことに、歴史学者が注をつけると「酒の一種」と書いて済ませているわけです。逆にいえば食文化の研究が非常に遅れていたことの象徴ではあるのですが、確かにこの煎り酒は非常に手間がかかります。しかし、東京でも1軒販売しているところがありますし、料亭などではきちんとつくっているところもあります。単に商品ルートに乗せるだけではなく、このつくり方についても広報活動を行うべきではないでしょうか。
 今ではほとんど失われつつある食材や料理法を見直して、PRすることによって、一見選択しているようで実は狭くなっている食文化の枠を広めていく必要があると考えています。