「『和食』文化の保護・継承をめざして」(ユネスコ無形文化遺産化運動)

2013年07月27日(土)

会場女子栄養大学駒込キャンパス
主催女子栄養大学

真夏の陽光まぶしい7月27日、26回を数える「女子栄養大学・女子栄養短期大学卒業生家庭科教員の会」が同校駒込校舎で開かれました。今回は、その会の中で行われた「和食の無形文化遺産化」意見交換会などの様子とともに、その直前に発表された「和食」文化の保護・継承国民会議への名称変更(旧:日本食文化のユネスコ無形文化遺産化推進協議会)の意味や活動のめざすものなどについてレポートします。

REPORT

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「和食」のユネスコ無形文化遺産化に向けて各所で積極的な取り組みが行われている。なかでも女子栄養大は熱心だ。これまで、同校の坂戸キャンパスで2回の特別講義(学生対象、栄大講義12)が開かれたが、今回は卒業生、しかも家庭科教員として児童・生徒を導く立場の方々が対象。その上、26回目という伝統ある勉強会が舞台とあって、講師役を務める武元将忠さん(農林水産省大臣官房政策課食ビジョン推進室)も気合い充分だ。

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この日は、午前10時に開会、同大短期大学部の教授で香川調理製菓専門学校校長、香川明夫先生による「学校教育の食育はつながりのなかに」の講演に続き、午前の部、二つ目の演目として農林水産省意見交換会「和食の無形文化遺産化」が設けられた。大学での講義の90分に対し、40分と限られた時間。武元さんはポイントをきっちり押さえつつ、猛ダッシュで「和食」のユネスコ無形文化遺産化と農水省の取り組みについて語りあげる。教室をうずめた家庭科教員の皆さんは、吸いこむようにその話を聞きとった。もともと食を含めた生活問題への関心が高く、専門知識も豊富な方々。日頃から子どもたちに接し、問題意識も切実だろう。教える立場として、ここでの学びをどう授業につなげるか、そんな姿勢が強く感じられた時間だった。

 

武元さんの講義タイトルは「日本食文化のユネスコ無形文化遺産登録申請を契機として」。

まず、日本の食と農を取り巻く状況として、食料自給率の推移(昭和40年頃の70%から現在の40%への減少)と朝食欠食率、一人当たりの食事内容と食料消費量の変化(例えば米の消費は年112kgから58kgに減った一方、肉類は3倍に)、栄養バランスの悪化や肥満など食生活の乱れと健康面での問題の発生など、国内的な背景(詳しくは梅花大講義を参照ください)を解説。加えて、ブームといわれる海外における日本食の状況を、好きな外国料理アンケート、日本食レストランの店舗数などから大づかみし、いよいよ本題の「和食」のユネスコ無形文化遺産化へ話を転じる。

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「『和食を世界遺産』に、という言葉は正確ではない」とぴしゃり。最初に、知名度の違いもあって混同され気味の「世界遺産」と「無形文化遺産」の区別から始め、「無形文化遺産とは」を詳しく説明、次いで「食」関連の遺産を紹介し、あくまでも食事そのものではなく「食にまつわる社会的慣習」としての登録であることを強調した(ユネスコ無形文化遺産についてはギリークラブ講座参照)。

そして、具体的に今回の「和食」の登録申請へ話は進む。2010年「フランスの美食術」の登録が大きなインパクトとなり、「日本食文化も」との動きが起こり、検討が始まる。武元さんは、申請への経緯に言及した後、「自然の尊重」をキーワードに、その日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」として「和食;日本人の伝統的食文化」が申請され、特徴は「多様で新鮮な食材と素材の味わいを活用」など4つに整理されたこと(栄大講義1参照)、可否決定までのスケジュール(7.20センター講座参照)を解説した。

さらに、「改めて申請の目的に立ち返って」として、その意義を、申請をきっかけに国民に関心を持ってもらい、次世代へ向け保護・継承する機運を醸成すること、とした。けっして登録すればいいというものではない、と。

 

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では、そのために何をやればよいのか。100人いれば100通りのアプローチがあるだろう。食に対する求め方、立場の違いもある。これがベストというものはない。例えば、として農水省の取り組みが紹介された(図)。3段ステップで、「知る」は夏から秋にかけて行う「全国ブロック別シンポジウム」、「繋げる」は食文化を新たな視点で発見するナビゲーションとして活用してほしい「日本食ナビ」(新地町2参照)、そして「活かす」は「モデル地域での取り組み」(モデル地域を公募し、補助を行う育成事業)などが挙げられた。

最後に、この無形文化遺産への申請を、「和食」を日本人が残していくべきものとして考えていく契機にしてほしい、子どもたちに伝える実践者としての先生方にもぜひ、と語って武元さんの講義は締めくくられた。

 

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残り時間はわずかだったが、会場からも手が上がる。

「教員、特に高校教員に話される時にはぜひ」との武元さんへの要望で、「実は学習指導要領の中に、選択科目だが家庭科分野で『食文化』という科目がある。1週間に1時間、1単位で、通常は調理師免許が取れる高校で必修科目になっているが、普通科でも選ぶことができ、1時間と言わず2時間とかやれば、世界や日本の食文化を扱う分野なので、まさに崩壊している『和食』を復活させるためによいと思う。お話の最後に一言つけ加えていただけると、多くの教員が知るようになり、機会が広がるのでありがたい」と。

また、司会の先生から「食文化ナビ」について、「農水省のホームページからワークシートをダウンロードし、会の世話人で事前に見せていただいた。授業の中でもたいへん使いやすいところもあると思う。皆さんにもホームページを見ていただき、使っていただければ」とのエールも送られた。

 

(この「卒業生家庭科教員の会」は朝10時の開会から夕方4時の閉会まで、昼食会をはさんでびっちりのスケジュールが組まれていて、学校が夏休みに入った先生方が、自分たちの学びを深め、同窓の皆さんでエールを交換する場のようでした。昼食会で乾杯の挨拶に立たれた女子栄養大学学長の香川芳子先生は、家庭科教育についてふれ、高校の家庭科2単位(男女必修)はそれで充分ということなのか、受験校ではそれ以上やるところはないこと、また、小・中学生への義務教育の意味は何かと問い、「食べることは生きること」を基本的に教え、生きる力を身につける場と語り、食育についても言及されました。まさに「食は生命なり」は、2013年、創立80周年を迎えた香川栄養学園を貫くものです。)

 

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じつは、これまでのレポートにも登場していた「日本食文化のユネスコ無形文化遺産化推進協議会」が7月に名称を変更、規約の更新を行い、この会の直前の時期に記者会見を開いていた。そこで、今回の報告では、その趣旨についても少しふれてみたい。

改められた新しい会名は「『和食』文化の保護・継承国民会議」、略称「和食会議」である。単にユネスコの無形文化遺産登録をめざす、という枠を超えて、むしろ登録の可否にかかわらず、継続的な取り組みを進めていくための展開だ。以前から、食ビジョン推進室の方々が語っていた「登録されるかどうかに関係なく、『和食』は日本人のアイデンティティとして守っていきたい大切なもの」という言葉にもつながる気がする。

 

会見で示された変更意図は次のようなものだ。

「協議会名称における、継続的かつ普遍的な本取組み趣旨の明確化」(日本の食文化=「和食」の保護・継承を図る目的のため、取り組んでいく会である)、つまり、目的は登録することではなく、この食文化を私たちが守り、次世代に伝えていくことなのだ、と。

「2013年12月以降のユネスコ無形文化遺産登録可否決定後も継続的に使用できる名称へ」。すなわち、登録の有無にかかわらず継続的に使っていける名前にしようということ。

「ユネスコ無形文化遺産登録申請時に採用された日本食文化=「和食」Washokuの文言を盛り込んだ名称へ」。

たしかに、「ユネスコ~協議会」という当初の名称に比べて、より広い世界観を感じるなあ。「和食」を守り伝えるという意志が明確だし、「国民会議」の語は私たち一人ひとり(国民)の運動というイメージだ。略称の「和食会議」も親しみやすい。何より、もともと「和食」のユネスコ無形文化遺産化の取り組みは、日本食文化の現状に対する危機感からも発していて、無形文化遺産への登録がゴールじゃなくて、それをテコにもう一度、日本人に自分たちの食の文化を見直し、考えていくきっかけにしよう、ということだったから。

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会見では、さらに会としての公式ロゴマーク(図)とスローガンも発表された。

ロゴマークは、食を「五」感で味わうことや、「五」つめの味覚である“うま味”、ズバリ絵柄からイメージされる“一汁三菜”の「五」つの器の配膳など、「和食」にまつわる「五」という数字を基本モチーフとしているそうだ。「和食」文化を「抽象的に表現」したとされるが、箸もしっかりイメージできるし、むしろ「象徴的」な感じを受けた。

“Washoku  JAPAN” は、「和食」が世界の共通語として成長することをめざし、英文表記にしたという。“Umami”も日本発の世界語になったし、“Bento”も今やその域に達しようとしている。“Washoku”も必ずや、と。

このロゴマークは、色づかいもシンプル、明確なメッセージ性があって、その上なにか楽しさも伝わってくる。なかなかおしゃれなもの。これから、「和食」の保護・継承活動の共通のシンボルとして、さまざまな場面で目にすることになるんだろうな。

ここで、示されたスローガンは、「伝えよう、『和食』の文化を。」だ。

これには、「日本食文化を世界に誇る共通の遺産」として国民みんなが「正しい理解と確かな意識」を持ち、あらゆる場面で日本の食を支えている様々な企業、団体、地方自治体、個人が一丸となり、「毎日の食卓から」日本食文化の保護・継承に取り組んでいくという「意志」が込められているという。

いま、世界で日本食のブームが起こっている。ユネスコ申請の背景として、海外の状況についても取り上げた(栄大講義2)。そのブームとは裏腹に、発信地であるべき日本の食卓はどうなっているのか。危うい現状がある。ユネスコ無形文化遺産に申請した「和食」の特徴、その素晴らしさは、世界にも誇れるもの。それを、今の私たちの世代で途絶えさせてしまうことは許されない。日本の食の文化は、日本人としてのアイデンティティを支えるものでもある。世界が一層グローバル化するこれからの時代、ますますその価値は高まるにちがいない。

 

もう一つ。会見では、「和食の日」(仮称)の設立が提案された。

これは、運動を、ユネスコ無形文化遺産化に向けて盛り上がっている今年度だけのものに留まらせず、継続的に行っていくため、毎年その機運が高められるような記念日を制定しよう、というものだ。

「11月24日」がその日。「いい日本食」の語呂にあわせ、「和食の食彩ゆたかな」秋のシーズンでもある。

この記念日が定着し、草の根的なところからも、日本の食の文化を考え、日々の食卓を大切にしていく取り組みの起点になったらいいな、と思った次第。

(「和食会議」について、詳しくはホームページを参照ください。)(了)