「海外で日本の食はどう見られているの?」(ユネスコ無形文化遺産申請の背景:海外)

2013年07月09日(火)

会場女子栄養大学坂戸キャンパス
主催女子栄養大学

REPORT

 

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東武東上線若葉駅。会場の女子栄養大坂戸キャンパスには2度目の訪問だ。特別講義「なぜ今、日本食文化なのか!?」を行う、農林水産業食ビジョン推進室・久保田一郎室長も再度の登板。

講義を主催する女子栄養大の磯田厚子教授から学生さんたちへ紹介を受け、教壇に上がった久保田室長はさっそく質問。「日本の食文化とは何か、パッと答えられる人はどれくらい? 自信をもって答えられる人は?」と言ってから、「正直、私も答えられない」と告白。「実は食文化という言葉自体が、一般の人に使われるようになったのは1980年代くらいと聞いていて歴史が浅い。さらに行政的なところでいうと、2005年に食育基本法ができた頃から使われるようになった。むしろ『日本の食文化とは何か』行政自体が模索しながら、それをどう国内外に展開していくか考えているというのが実情。我々も勉強中なので、皆さんが答えられないのは当然と思う」と、最初の投げかけで学生さんたちとの距離感をぐっと縮めて講義をスタートする。

1時間半の講義で、久保田室長は熱弁をふるわれたが、今回のレポートでは、「和食」のユネスコ無形文化遺産登録申請の背景としての海外事情などを中心にまとめてみたい(ちょうど磯田先生は国際協力学がご専門、「国際理解論」を受講する学生さんは海外への関心も高かったので)。

 

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室長は最初に「海外における いわゆる『日本食レストラン』店舗数」の図を示した。ある機関が調査したものから農水省が推計したものとして紹介。ただし、「いわゆる」がクセ者だ。つまり「日本食レストラン」と「自称」しているだけで実態はわからず、行ってみたら「これは何?」ということもあり得ると。

しかし、いずれにしても今年、2013年3月時点で、全世界に約5万5000店あるという。この数字が多いか少ないかはさておき、注目すべきは店舗数の推移。2006年(約2万4000店)から2010年(約3万店)まで4年で6000店の増加だったものが、2010年から今年春まで、およそ2年間でほぼ倍増、すごい勢いで増えている。また、アメリカやアジア地域はわかるが、ヨーロッパやロシア、中東からアフリカ地域でも急激に数を増している。

「ただ」と室長、「悲しいことに、そのほとんどが日本人の経営ではない。テレビで見たが、にわか勉強で1日くらい日本人などから習って、見よう見まねでやっている。それでも、現地では美味しいと言われ、受けている。日本食は健康的で美味しいというイメージがあるのだろう」と。

 

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そして、次の図が「好きな料理かつ外食で食べる外国料理はどれですか」という質問への答え。これは、ジェトロ(日本貿易振興機構)が行った調査である。ここから見える海外の状況とは。「中国からイタリアまで、7つの国・地域で、意外や意外、日本が圧勝。全体でみると2割強の方が日本料理が好きで、外食で食べている。イタリア料理や中国料理に負けているのはアメリカだけ」と。やっぱり、アメリカ人は油っこいものが好きなのかなあ。ここでも、「ただし、フタを開けてみたら、これが日本料理? なんてこともありうる」と懸念を付け加えた。

 

1312078.jpgじゃあ、海外の人たちが好きな日本料理はどんなもの? という質問に答えるのが「好きな日本料理メニューはどれですか」と尋ねた図(同じくジェトロ調べ)。日本人が、普通予想するのは、寿司、刺身、天ぷらというところか。もちろん、そのあたりは定番で人気があるが、ラーメンやカレーライスなんていうのも入ってくる。つまり、海外の人たちの認識では、ラーメンやカレーは日本料理ということ。これも意外だ。室長曰く「日本人なら、ラーメンは中国が本場だと考えるが、案外中国の人は日本のものをラーメンと思っている」と。これって、拉麺とラーメンはまったく別物ということ? また、テレビ情報として、インドで日本の有名カレーチェーンが美味いカレーとして広がっているという話や、ヨーロッパでも、日本のアニメのキャラクターがカレーを美味しそうに食べるシーンが影響したのか、カレーがすごい文化と評されているとか。これも、クールジャパンといえるのかな。

 

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これらの海外情報を語った後、「何がいいたいのかというと」と室長。「日本食文化といっても幅広く、捉え方によっていろいろある、ということ。寿司や刺身だけでなく、カレーライスも海外から見れば日本オリジナルメニューになっているわけだから。広義にとれば、インスタントラーメンなど日本発の先進的な食も日本食文化に含まれてくる。ただ、海外の人が抱くイメージとしては、新鮮な魚介や野菜などを多用しヘルシーで美味しい、というのが前提にあるのだろう。これだけ海外で注目されている日本の食文化を、農水省としてほっておく手はない。どんどん発信して、農水産物の輸出や外食産業の振興に結びつけたい、との流れは一つある。では、日本国内はどうなのか―」と。

海外での注目と裏腹に、お寒い日本の実態が語られ(梅花女子大レポートを参照ください)、「当の日本人そのものが日本食文化がわからない、という深刻な問題に直面している」と。ユネスコ無形文化遺産へ「和食」を登録申請した大きな背景。「日本人自らがしっかり日本食文化を認識して、『和食』とは何かわからないと、海外の『なんちゃって日本食』に対しても何も言えない」。申請は、「日本国民に対して、もう一度日本食文化を考え直してほしいというメッセージだ」と訴えた(経済官庁である農水省だが、このプロジェクトは輸出振興など、儲けを目指すためのものでないことも重ねて強調された)。

 

そして、本題のユネスコ無形文化遺産(ギリークラブ報告参照)、さらに本題中の本題として「和食」とは何かを解説し(栄大講義1参照)、「結局、『和食』って何? と言われ、このメニューは入るのか? と訊かれる。しかし、ここで言っているのはそういうことではない。個々のメニューでもなく、美味しい美味しくないも関係ない。食を中心として脈々と受け継がれてきたもの、それをしっかり押さえ、大事な要素として意識し、尊重していこうということ」だと。「『日本食文化』は英語だと『ジャパニーズ・フード・カルチャー』になってしまう。『WASHOKU(和食)』は造語で、ふだんイメージされる和食ではない。文化のキーワード。日本人の精神を尊重した食文化・生活様式をさす」とも。

また、お弁当がアメリカでもブームになっていることを紹介。「ミニおせちのように小さな箱の中に彩りよく、栄養バランスよく詰められ、日本人が世界に誇れる文化。このように、私たちが当たり前と思っているものが、海外では驚きをもたらす。それこそが文化だ。『料理』というカテゴリーでは考えないでほしい」。これって、食文化ナビの「気づき」にもつながる話(岩手県久慈市の例。自分たちが恥ずかしいと思っていた田舎の風景や赤身の短角牛が外の人から再評価された)。それに、お弁当はフランスでも人気と聞くし、「BENTO」は今や世界に通じるぞ!

 

「若い人たちからすると、古いことを押しつけられる感覚があるかもしれない。でも、そうじゃない。100%真似していくのが食文化の継承ではない。むしろ、食文化は常に変化してきた。その時代の価値観を取り入れ社会の中に定着するからこそ受け継がれた。皆さんが新しくアレンジし、今日的価値を加えて若い人も受け入れられる食文化にし、次世代に伝えていく。ただ、その中で脈々と伝えられた大事な要素は何か、それを大切にしながら新しいものを創り出す。継承されなければ文化ではない、単なる一過性のブームやファッション。皆さんが新しい創造をし、それを常に発信し批判してもらい、循環させていく。宝を活かした取り組みをしていってほしい」(大事な要素とは、自然の尊重であり、いただく命への感謝の思いなどなど、「和食」の特徴として掲げられたもの)。

久保田室長は最後に、こう言って学生さんたちにエールを送った。

「これから一層ボーダーレス化が進む。その世界を渡り歩く時、大事なのが個性だ。日本人としての個性が武器になると思う。そして、あなたのアイデンティティ、個性は何かと問われた時、日本食文化を語れることは非常に大きな武器になるはず。食は誰もが生きていくのに欠かせない、原点だから。日本人のアイデンティティとして、誇りをもって世界に向かってほしい」。

 

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講義の終了に際し、磯田先生からも一言。「『和食』の登録申請については知っていたが、私自身会席などの日本料理というイメージを持っていた。全くそうではなく、根底に流れている日本人の食の文化を抽出し、それを登録しようという試みであることがよくわかった。大変おもしろく聴かせてもらった」。

 

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前回の女子栄養大での講義と同様、学生さんたちへのアンケートが行われた。質問項目は以下の通り。

 ①これまで日本食文化について考えたことがありますか?

 ②外国人に日本食文化は何かと聞かれたら何と答えますか?

 ③今日の話を聴いて、日本食文化について改めてどう考えましたか?

 

この問いに答えたアンケートから。

①については、「健康的・ヘルシー」や「米食」、また、懐石料理、郷土料理、家庭での料理などのイメージを持っていたことが記される一方、食生活の欧米化、ジャンクフード化、米の消費減少による食文化の衰退、地方の伝統食の減少などの危惧も表明されている。

②については、「一汁三菜」「自然産物を活かす」「四季や地域ごとの変化に富む」「見て楽しむ、匂いで楽しむ、音で楽しむ:五感で味わう」「自然・命への感謝」「日本の環境と日本人の心の表現」「親から子へ引き継がれてきた伝統的なもの」など、ユネスコ無形文化遺産へ登録申請された「和食」の特徴が意識された内容が多かった。

③「海外での日本食レストランの数の多さに驚いた」「好きな外国料理の1位が日本なのに驚き」「ラーメンやカレーなどが日本食として美味しいとされているのが驚き」など、海外事情への感想、改めて知った日本の食文化をさらに学んでいきたいという抱負も多く記された。日本食文化とは? との問いで自分の知識のなさに気づき、確かにそれは誇れるものとしつつも、「私たち日本人が理解を深め、その魅力を再認識することなしに、無形文化遺産登録などなし得ないし、登録されるべきではない」とし、「登録されても、その名に恥じぬよう私自身、もっと日本食文化について知る必要がある」との決意も示された。同じく「日本人が日本食文化について理解し、積極的に食べていくことが大事」「国産のものに目を向け、地域の産物を食べていきたい」など、日本人が考え、行動しようとの意見も。「郷里は自然ばかりで何も無い所と思い誇りが持てなかったが、自然豊かで美味しい食べ物に恵まれ幸せと感じられた」と、さっそく【気づき】も。さらに、「伝統を大切にしながらも、現代の私たちが時代に合った食の形態を取り入れながら、継承されていく文化をつくっていきたい」など、食文化は変化しながら継承されていく、その担い手はあなたたち、との久保田室長のメッセージは、多くの学生さんたちの胸に届いていた。そして、「日本食文化を語ることのできる日本人をめざしたい」「日本人の個性を生かす、との言葉に納得」「食は、それを通じて日本の良さを表すことのできるものと知り感動」など、日本人としてのアイデンティティも意識されている。

 

先般の食の文化センターでの公開講座の折、学生さんたちへの講義の手応えを語られた久保田室長の、その熱意がさらに伝わる特別講義だった。(了)