鰹節発祥の地、印南町を訪ねて その3

2013年08月22日(木)

会場印南町公民館
主催公益財団法人 味の素食の文化センター
後援印南町 印南町教育委員会
サポート印南町文化協会

REPORT

訪問3日目

 

 

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「印南町の和食文化を考える・意見交換会

~和食のユネスコ無形文化遺産化活動について知る~」

〈1〉開会と第一講演

 
 
 

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印南町を訪れて3日目、いよいよ本番の意見交換会だ。朝から気持ちよく晴れ渡り、朝ご飯もしっかり食べて、いざ出発。講演をされる先生方も準備は万全のご様子。皆さんの活動発表を含め、傍聴させていただく身としては期待でいっぱいである。会場の公民館では、すでに関係の方々が忙しく立ち働く。

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準備をお手伝いしながら、開会の時刻を迎える。こちらの新聞に出たこともあって、当初予定よりも参加の方が増えているという。さすが、食文化の町、印南だなあ。
 

◆参加者の期待もふくらむ開会

 
開会に先立って、印南町文化協会の坂下会長が「この機会は印南をPRする意味でも大変感謝」と語り、地元からの参加の皆さんを紹介、なごやかなムードをつくって、司会の飯田事務局長(食の文化センター)にバトンを渡す。

 

 

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最初に、財団の鈴木郁男専務理事の主催者挨拶。お集まりの方へのお礼の後、「実はある会で坂下さんが『印南町はかつお節発祥の町』と話されているのを飯田事務局長が耳にしたのがきっかけ」と、そもそものいきさつを紹介し、背景として「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録申請されたこと、その活動を側面から応援しようという企画意図を説明。「印南の食文化の自慢話をするんだ、というくらいの気持ちで話してほしい」と発表者にエールを送った。

 

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次いで、歓迎の挨拶を、教育長の岡本徹士さんからいただく。出張中の町長に代わってと前置きされ、「印南町は“食”を重要なテーマと位置づけて様々な取り組みを重ねている。今回、和歌山県の中でも印南町を選んでもらったことは光栄」と語り、先日テレビで見たという保育園での給食風景を引いて「当番の子がご飯は左、味噌汁は右、ご飯は百回かんで、と声をかけていた。和食は栄養面だけでなく、作法がともなう。だから優れもの」と、こちらも和食文化に後押しをいただき、意見交換会が始まった。
 

◆「日本料理の魅力と秘密」を大いに語る:的場輝佳先生(奈良女子大学名誉教授)

 
本日の演者の一番バッターは的場先生。
司会の飯田さんが、奈良女子大の名誉教授で、京都の料理人さんたちを中心とするNPO法人「日本料理アカデミー」の理事も務められていると紹介。さらに、「的場先生は日本調理科学会の前会長で、実は今日から奈良で学会が開かれていて、本来ならそちらに参加しなければいけない立場なのに、『印南のほうがおもしろそうだ』と、3日前からいらしています」と付け足した。
そこで的場先生。「そんな訳で、学会が始まっているんで本部から電話が掛かってきて『今、和歌山やから行かん』と言うたところ。来る前にも京都の料理人さんとの話で『どこへ行くのや』『和歌山の印南や』。『印南に何で行くのや』『印南は鰹節発祥の地や』『えー!』ということで、彼らも印南のことを知りませんでした」。ご自身も今回の旅でその歴史を知ったと。ぜひこの機会に、“だし”の原点である鰹節、印南こそ発祥の地とアピールしたいと力強く宣言し、聴衆のハートをがっちりつかんだ。
 
そして本題へ。まず、世界的なピアニスト中村紘子さんの著書『どこか古典派』から、「世界の三大美食は?」という問いを引き、フランス料理、中国料理、(人によってトルコ料理とか、日本料理と言いたいところを)「自分が生まれ育ったふるさとの料理」と紹介。ふむふむ、中村さんは世界を旅しているからこそ、ふるさとの味を懐かしく、最高の美食と思ったのだろうと納得した。
 
話はさらに、ふるさと日本へ。

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南北に細長く、周りは海に囲まれ、世界第2位の森林率(68%)、その気候風土が生んだ食材で、日本人はずっと生きてきた。主食の米、魚介・蔬菜・豆・海藻類などによって構成される副食、飲料は緑茶―という、いわゆる日本型食生活の食材は、かなり古い時代から食べられてきた(もちろん十分食べられたかは別ですが)。奈良時代の遺跡から出土する木簡を調べると、現在あるほとんどの食べ物がその時代から存在したという。つまり、こういうパターンの食生活が昔からあったのだと。これらの日本型食生活の食材については、後でその健康増進効果も解説してくださった。
(余談ですが、木簡の話ではご自分も奈良出身と披露。そういえば、前日のバス中の談義でも、奈良の、生まれ育った地域の食材や料理と、皆さんが語る印南のそれと、共通点や違いをしきりに気にしていらしたなあ。距離的に近いこともあり、伝播や交流など何かつながりがあるのでは、と。やっぱりそれが的場先生の「美食」、アイデンティティの味なのかな。)
 

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お話は続く。日本型食生活は栄養バランスがとれ健康にいい、とよく言われる。栄養のバランスを見るために世界的に使われている方法がPFCバランス。P(タンパク質):F(脂質):C(炭水化物)の比率13:27:60が理想とされる。日本は長く主食偏重でCが多めだったが、戦後豊かになり肉類・卵・乳製品がうまく食事に取り入れられ、不足気味だったPFが増えて最高のバランスになった。昭和55年(1980)頃のことだ。日本人の平均寿命も世界一になり、海外でも日本型食生活は一気に注目をあびる。「健康食」イメージは、今日に続く日本食ブームにつながっている。でも肝心の日本はというと、その後、脂質の摂りすぎでバランスが崩れてしまった。

「この理想的な栄養バランスが実現できた国は、世界中で“この時期の日本”だけ」と、的場先生は強調。さらに、「日本型食生活のすすめ」とか「見直そう日本型食生活」と言うとき(例えば農水省などで)の“日本型食生活”は、この時期の食生活を指すものと、区別を明示された。
 
そして、最初のテーゼ「自分が生まれ育ったふるさとの料理」に戻って、ふるさと日本を見ていくと。
第一に、日本はきれいな水に恵まれている。
水質の良い軟水で、ご飯を炊くにも、だしを引くのにも適し、日本料理に向いている、と。この水があったからこそ日本料理ができたといえるのかも。確かに、夏場に若干の渇水はあっても、基本的に一年中、水をこれだけふんだんに使える所は日本以外ないだろう。しかも安全で安い。刺身などの生食にも、きれいな水が欠かせなかったと聞いたことがあるし。
第二に、日本には明確な四季がある。
他の国にも四季はあるが、ほぼ4分割されるような国はない。季節の変化を敏感に感じ取る日本人の感性が日本の文化を支えている、と。これも、確かにそうだ。食だけでなく、文学、芸術、その他あらゆるものに、その美意識が流れているもの。
「日本料理は、“だし”をベースに、おいしい水と癖のないご飯、旬の野菜と魚介類を食材に、四季折々の生活の中で育まれた」と的場先生は定義。これまでのお話、ユネスコ無形文化遺産に登録申請した「和食」の特徴とも、大いに通じているなあ。
 
さらに佳境に入り、印南にもっとも関係深い「だし」にテーマが絞られていく。
海外におけるブイヨン、フォン、湯(タン)などと比較して、日本のだしの特徴やだし素材について述べ、「うまみの相乗効果」も解説。鰹節や煮干しのイノシン酸、干し椎茸のグアニル酸と、昆布のグルタミン酸をプラスすると、1+1ではなく8倍くらいにもなると。これって「調理科学」ですね。江戸時代に始まったといわれる合わせだし、化学分析はできなくても、その美味しさを経験的に知ったということだろうな。
日本料理のベースは「だし」、「しっかりしたよいだしがあれば、味はあとからついてくる」と。特に「だし」にこだわるのが京料理だ。その極意を、京都の料亭、菊乃井の村田吉弘さんの手法で紹介。昆布は水から入れてゆっくり加熱し、60度でキープして1時間。昆布を引き出して加熱し、沸騰前に鰹節を大量に投入、火をとめて30秒~1分、かき混ぜずそのまま漉す。押すのも禁物、とのこと。
この一番だしは、とても美味しそうだけれど、家庭ではちょっと難しいかも。昆布は水出しにするとか、一・五番だしくらいの気軽さがあると、助かるなあ。
そこは的場先生もフォロー。「毎日だしを引くのは大変なこと。味の素さんがいるから言うわけではないが、今だしの素などの味も良くなり、普段はこれらを上手に利用し、必要により昆布を足したり追い鰹をすればいい。ある意味、こういう製品があったから『だし』の味が生きる日本料理が継続しているとも思う。ただ、たまには本格的なだしも引いてほしい」と。
 

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お話は、最終テーマ、先生が理事もされている「日本料理アカデミー」の活動へ(ちなみに、先の菊乃井の村田さんはこのNPO法人の理事長でもあります)。
第一は、京都市教育委員会と連携する、小学校への食育活動。
子どもたちに、だしを中心とする日本料理を何とか伝えていきたいと、京都の老舗の料理人さんたちが立ち上がった。食育カリキュラム推進委員会(的場先生が委員長)がカリキュラムを作り、料理人さんが実際の授業を行う。平成17~24年までの8年間で、延べ110校、6706人の児童に実施、参加した料理人さんは29名、すべてボランティアである。
実際の授業の様子も紹介された。舞台は京都の北、鞍馬の小学校、先生役は中東さん(美山荘主人)。テーマは、「だしの魅力」「食べ物は命をいただくこと」「もてなし」の3つ。
「だし」には、自分の店で使う自慢の昆布や鰹節を持ち込む。まず昆布だしを飲ます。子どもたちの反応はしぶい。そこに鰹だしを加えて飲ませると「おおー!」。さらに少しの塩、?油を垂らすと味がぐーっと変わる。いわく「だしの美味しさの刷り込み」だ。
「命をいただく」からこそ、全部食べ尽くす。食材は聖護院大根。葉と軸、?いた皮と身を分け、葉は煮びたし。軸と皮はゴマ油で炒めて?油とみりんで味つけ。だして炊く大根の味つけは?油のみ。だしがしっかりしていれば、他に何もいらない。少しずつ味見をしながら。
ご飯も、店のお釜を持ってきて炊いた。そして、盛りつけ。子どもたちは競ってやりたがる。
自分の店で一番の素材を使い、持っている技術を惜しみなく出して、子どもたちに伝える。その思いが子どもたちに伝わり、みんなの一生懸命がまた料理人さんのやる気になる。よい循環ができている、と的場先生。
 
もう一つが、京料理と嚥下食のコラボレーション。タッグを組むのは、「京滋嚥下食を考える会」。日本料理アカデミーの「嚥下食チーム」が、京料理で嚥下食が作れないかと取り組んでいる。
嚥下食というと、刻み食やミキサー食のイメージが強い。でもそこは京料理、味は当然だが、見た目も大事。チームが料理を考案し、作り方を栄養士さん、調理師さんに教えて実践。「食べたくなる食事」を目指す。昨年(2012年)の敬老の日の松花堂弁当では―。例えば冬瓜の煮物。皮に近い緑がかった部分と身を分けて別々に煮てそれぞれミリサーで潰し、固めてからくっつける。一目で冬瓜とわかる。鮭も、皮と身を別々に加熱調理し、潰して固めくっつける。そこにバーナーで焼き目をつける念の入れよう。見た目も風味も違う。お品書きのついた食事。お年寄りたちの箸も進み、施設長さんもびっくりしたとか。料理人さんたちに、おばあさんが手を合わせてくれたという。
 
最後、「伝統的なだしの文化を残したい。そこには、DNAのように日本人の生活のすべてが入っている。これから生まれる子どもたちにそれを伝えるためにも、ぜひユネスコ無形文化遺産になってほしい」と締めくくられた。(その4へ続く)