第1部文化財行政の在り方 国・自治体の文化財行政について

2014年03月03日(月)

講師: 神崎 宣武

REPORT

神崎 宣武
神崎研究室室長、旅の文化研究所所長、民俗学者

 

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私は、文化審議会の中にある無形文化遺産をまとめる委員会に所属しており、農林水産省からの起案報告書をブラッシュアップ、英訳して、ユネスコの会議に持ち込むという手順の中間でまとめ役をしていました。その見地からお話しします。
 ユネスコの一覧表に基づいた無形文化遺産の保護に関する条約に「その基準」という項目があります。そこでは「口承による伝統及び表現」それから「芸能」「社会的慣習、儀礼及び祭礼行事」「自然及び万物に関する知識及び慣習」「伝統的な工芸技術」というような分野が設定されています。「和食」は「社会的慣習、儀礼及び祭礼行事」に入ります。「和食」の提案の正式な名称は「和食;日本人の伝統的な食文化-正月を例にして-」で、サブタイトルの「正月を例にして」にその主旨を反映しています。日本人の精神性を体現した食に関する社会的慣習としての提案なのです。年中行事にまつわる共食(共同の飲食)ということです。
 ユネスコ側は個別の特性だけではなく、普遍的価値ということを絶えず強調しています。当初、私などは、普遍的価値とはどういう意味なのかよく分からなかったのですが、「和食」に関しては、行事のたびに人が集まり、地域の自然の素材を使って料理し、神・仏に供えて、それで共食するという、日本の祭りのごちそうの食べ方と捉えるのが妥当でしょう。
 日本の文化行政で誇るべきことは、民俗文化財の指定制度を持つことだと思います。能楽や人形浄瑠璃、歌舞伎などは芸術的な無形文化財で、重要無形民俗文化財は、地域社会に根づき、地域社会が育んで伝承しているものです。これらが地域ごとに、非常に多様な形で展開している。地域のこと、民間のことはそれぞれに任せるというような暗黙の了解が、日本の社会に多様にして多数の無形文化を伝えたのでないでしょうか。
 いま日本で無形民俗文化財の登録は286件あり、その中の20件近くが無形文化遺産に登録されています。能楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎は傑作遺産としてすでに登録されていましたが、平成21年の第1回では、雅楽などの無形文化財、日立風流物などの民俗文化財、合計14件の登録申請をしました。14件という数は、無形文化財、民俗文化財をさまざまな分野に分けて、それぞれから古い指定順に1件ずつ出したもの。そうすれば、3、40年でほとんどが登録されるであろうという期待からです。その後、ユネスコの審査基準から申請件数は減っていきました。昨年の第5回は1件だけ、「和食」が提案されました。これは国の無形民俗文化財の指定枠以外で出しており、改めて「和食」を国内でどう正当に認知してもらえるかがこれからの課題だと思います。
 最後になりますが、こういう概念設定はよほど丁寧に広報していかないと正確には伝わりません。報道などでは、行事に関する共食ということで取り上げた「正月を例にして」という部分がほとんど抜けていました。国や地方行政、報道などのよりよい連携が必要だと感じています。