海外「食」レポート<韓国編>(1)守屋 亜記子

結婚式のごちそう

 
守屋亜記子(もりや あきこ)
ソウル在住
総合研究大学院大学博士課程在籍
文化人類学的立場から韓国の老人食について調査中
(上記は誌面掲載時のプロフィール)

 

 「いつ、ククス(麺類)を食べさせてくれるの?」韓国に来て、何度この質問をされたことだろう。結婚式といえば伝統的にククスを振る舞う韓国で、この言葉は「いつ結婚するのか?」と同義である。
 結婚式も披露宴もすべて自宅で行っていた時代はすでに過去のものとなり、今は一般的には結婚式場で、富裕層の場合はホテルで行う。招待客への食事は、結婚式場ではバイキングスタイル、ホテルではコースで供される。
 ある結婚式の披露宴に並んだ料理を列挙してみよう。
ご飯類(白飯、黒米入りご飯、あわび粥)、肉料理(カルビチム(牛カルビの煮物)、プルコギ、ユッケ、酢豚、とんかつ)、刺身、各種ナムル、野菜サラダ、チャプチェ(春雨と炒めた肉、野菜のあえもの)、トトリムッ(どんぐりの澱粉を加熱して固めたもの)、エビフライ、韓国式海苔巻き、日本式の握りずし、白菜キムチ、水キムチ、ククス、果物、餅、プチケーキなど、ざっと数えても20種は下らない。
 多少の差はあるが、どの式場もメニューは似たりよったりである。韓国料理のほか中華に和食、洋食とバラエティー豊かで、肉料理がメインだ。結婚式につきもののククスは、たとえフランス料理のコースであっても必ず登場し、伝統は生きている。
 正直言って結婚式を見るよりも、私にとっては参列者の皿を見るほうがおもしろい。あるハルモニ(おばあさん)のお皿を遠目で見たら、皿の上が茶色一色だった。近づいてみると、なんとそれは山と盛られたプルコギとカルビチムであった。あるハラボジ(おじいさん)は、赤と黄色のツートンカラー。ユッケと餅だけでお皿が満たされていた。若者には刺身と握りずしがダントツ人気だ。
 普段口にできないものを食べるのが、ハレの日の楽しみでもある。早くから肉食文化が発達してきた韓国だが、ことに牛肉は、庶民にとって長い間高嶺の花であった。植民地時代と朝鮮戦争を経験してきた老人世代にとって、牛肉はめったに口にできないごちそうであり、一方、飽食の時代に生まれ育った若者世代は、肉よりも高級感のある刺身や握りずしに惹かれるのだ。
 宴の皿に盛られた料理は、その皿の主の食の履歴であると共に、その世代が生きた時代の食生活を写す鏡ともいえるのである。