海外「食」レポート<韓国編>(3)守屋 亜記子

春を告げる山菜

 韓国において春の到来を告げる食材はいろいろあるが、野山の恵みといえばネンイ(ナズナ)、タレ(ヒメニラ)、トゥルプ(タラノメ)などが代表的であろう。ネンイは、根のついたままテンチ”ャンチゲ(味噌チゲ)に入れたり、ゆでてコチュチ”ャンを加えてムッチム(和え物)に、タレは根まで刻んでヤンニョムチ”ャン(薬味醤油)に加えたり、トゥルプは、ゆでて酢コチュチ”ャンに付けるなどして食べる。いずれも山菜特有のほろ苦さや香りが、草木の萌えいずる野山を想わせる春の山菜である。

 

 私の調査先のの老人施設では、4月になると毎日毎食ミンドゥレ(タンポポ)・タレムッチムが供された。それは、裏山の土手でハルモニ(おばあさん)らが摘んだ根のついたタレと柔らかいミンドゥレの葉とをざっくり切って、唐辛子粉、しょうゆ、ごま油、少量の砂糖、ごまなどであえたおかずである。暖かい日には、足腰の丈夫なハルモニが草かき、包丁、袋を手に裏山に出かける。雑草のなかから食べられる山菜を目ざとく見つけ、1時間もすれば買い物用のビニール袋は山菜でいっぱいになる。但し、こうした山菜料理は、ミンドゥレやタレの葉が柔らかいうちしか楽しめない。花がつぼみをつけて葉が固くなってきたら、もう食すには適さないからである。

 

 春の山菜摘みは、自然に恵まれた居住環境にあり、かつ時間の余裕がなければ難しい。ゆえに、都市部に住む忙しい主婦たちは一般にスーパーやデパートの地下食料品売り場で、土を落としてきれいにパック詰めされたものを買い求める。パック詰めの山菜は、野山で摘んだものに比べると根と葉が大きく、香りも苦味も薄い栽培ものである。昨今は在来市場でもおなじで、11月末のキムチ”ャンの季節ともなれば、栽培ものの青々としたネンイが一山いくらで売られている。

 

 ビニールハウスで栽培した規格品は確かに市場性があり、また、真冬に早春の味を楽しむのも季節の先取りといった感じで悪くないのかも知れない。しかし、それと引き換えに食卓から季節感が薄れ、春の訪れを愛でる機会も失われつつあるのも確かである。安東のミンドゥレ・タレムッチムがおいしく感じられるのも、期間限定であればこそ、という気がする。