鯛焼きの甘酢あんかけ四川風

「鯛焼きの甘酢あんかけ四川風」なる料理

満型の体型の大食軒先生の実践しているダイエットは、コーヒ、紅茶に砂糖をいれないことと、甘い菓子類を食べないことだけである。
だが、上方落語ファンの酩酊にとって、気になる甘い食べものがひとつあった。「鯛焼きの甘酢あんかけ四川風」なる料理である。
 
「ぜんざい公社」という落語は、東京でも上方でも演じられるので、ご存じの方もおおいだろう。
国営のぜんざい屋が誕生し、店員はすべて公務員である。そこに食べにいくと、住所、氏名、生年月日などを記入して、ハンコを押し、証紙をそえた書類を提出して、ようやく、ぜんざいにありつけるという、お役所仕事をからかったストーリーである。
公社の提供するぜんざいには汁がない。苦情をいうと、「当方は役所です。甘い汁はさきに吸うてます」というのがサゲである。明治の初期に、三遊亭円朝が「武士の商法」をからかった「御膳汁粉」という落語を創作し、これが「改良ぜんざい」、「文化しるこ」という噺になり、戦後に桂米朝師匠が「ぜんざい公社」というタイトルにし、「甘い汁」のサゲをつけたのは笑福亭松之助師匠だそうだ。とは、落語作家の小佐田定雄さんの『噺の肴ーーらくご副食本』(1996年 弘文出版)からの受け売りである。
 
グルメブームの頃、世相にあわせて小佐田さんが「ぜんざい公社」を改作して、「マキシム・ド・ゼンザイ」という新作落語にしたてあげた。いまでも、桂雀松さんの十八番として演じられる。ふかふかの絨毯、シャンデリアのあるデラックスな部屋で、「究極のぜんざい」を食べさせる店の噺である。メニューはフランス語で書かれている。店員が訳して説明する、甘いものずくめの「ディナー・コース」のメニューを紹介してみよう。
                                   
 こしあんもなかのスフレ風
 甘納豆のポタージュ
 丹波栗のきんとん 
 鯛焼きの甘酢あんかけ四川風
 飴細工のウグイスに小豆の詰め物  蜂蜜ソース
 マンジュウ・ア・ラ・モード
 ぜんざい
 
「丹波栗りのきんとん」は九谷焼の小鉢、メインディシュの「ぜんざい」は輪島塗りの器で供される。これに八十年物の玉露のボトルキープとテーブルチャージ、消費税をふくめると、28,500円支払わなければならない。
 
桂雀松さんの口演では、「鯛焼きの甘酢あんかけ四川風」を口にして、「中華の象牙の箸で食べるんですね。・・・・けったいな味。こんなん、別々に食べたほうがおいしいと思うねんけどなァ」と述べている。
たしかに、甘い鯛焼きと四川風のソースはミスマッチと思えるが、食べてみたら、案外いけるかもしれないと、ながいあいだ気になっていた。そこで、思いきって試食することにした。冷凍の鯛焼きを常温にもどし、表面がカリッとするように揚げてみた。赤ピーマンを刻んで四川の辛い調味料である豆板醤をゴマ油で炒め、そこに中華風のスープに醬油、黒酢、砂糖で味つけし、水溶き片栗粉でとろみをつけて、揚げた鯛焼きにかけてみた。鯛焼きのあんの重厚な甘味を、ゴマ油の香りのする甘辛く酸っぱいソースがやわらげ、さわやかな食感になった。カリッと揚げた鯛焼きの皮と、とろみのあるソースのつくる歯触りがおもしろい。
ミルクでたてた抹茶をそえて食べると、オツな味の料理になった。
 
そのうち、「鯛焼きの甘酢あんかけ四川風」を名物料理にする「大食軒」を開業しようか。