本場のバイキング料理

スモーガスボードの夕食で、筆者が選んだ料理。ザリガニの冷製、ニシンの酢漬け、ムール貝の煮付け、雄シカのタルタル、レバーペーストなど13品。ほかに熱い料理の皿やデザートを盛った皿もたいらげた。

 酩酊先生の胃袋は領土帝国主義者である。世界中の料理が食べられるのが、現在の日本であるが、現地へ行って食べてみないことには、酩酊の胃袋は満足しないのである。
 今年の6月には、胃袋の世界地図の空白地帯であったノルウェーとフィンランドをふくむ北欧諸国を周遊する団体旅行に参加した。
 
 北欧諸国は、社会福祉制度や教育制度が充実していることで有名である。そのための費用は国家が負担するので、税金はいちじるしくたかい。スウェーデンの所得税は日本の約2倍だし、食料品の消費税率は12パーセントだが、他の日用品の消費税率は25パーセントである。
 そこで、北欧諸国の物価はいちじるしくたかい。旅行者にとっては、外食費がたかくつく地域である。簡単なランチでも日本円にしたら2000円以上するし、ちょっとしたレストランで夕食をとると一皿の料理に3000~6000円支出することを覚悟しなければならない。
 酒税がたかいので、食事のさいの酒代もばかにならない。ノルウェーの大衆レストランで、一番安い銘柄のビールを注文したところ、0.6リットルの瓶が一本約1800円した。
 食事代がたかいので、北欧の人びとはあまり外食をしないそうだ。
 
 安あがりに、北欧の食べものを数多く体験するためにうってつけの食事が、北欧名物のバイキング料理である。
 ビュッフェ型式の食事を、バイキングとよぶのは日本だけのことである。その由来は、1967(昭和23)年に帝国ホテルが、スウェーデンのスモーガスボードを模したセルフサービスで食べ放題の食堂を開業し、そのレストランを「インペリアル・バイキング」と名づけたからであるという。
 スウェーデン語で、「スモーガス」とはパンとバターあるいはオープンサンドイッチを意味し、「ボード」はテーブルなので、「スモーガスボード」は、パンとバター、あるいはオープンサンドイッチを並べたテーブルという合成語である。
  スウェーデンの中世のパーティでは、正式の食事のはじまる前に、テーブルに並べたパンやチーズををつまみながら、ジャガイモの焼酎であるシュナップスを食前酒に飲む習慣があったという。17世紀になると、温かい料理も供されるようになり、軽食ではなく正式の食事型式となったという。サービスの労がはぶけ、食べ残しのない合理的な食事型式なので、北欧諸国のホテル、レストラン、列車食堂などでよく食べられるようになった。日本のバイキング料理なら、手当たりしだいに好きな料理を一つの皿に盛ることが許されるが、北欧での正式な食べ方には順序がある。
 最初に食べるのは、酢漬けにしたニシンのような冷たい魚料理とされる。つぎに、サケやウナギの燻製、タラコなどの室温で食べる魚料理、3番目にはハムやレバーのパテなどの冷たい肉料理をとり、ついでミートボールなどの熱い料理を味わい、最後に果物やデザートをとるべきだとされる。
 この順番に料理の並んだテーブルと客席のあいだを往復し、食べおわった順番に自分のテーブルに皿を重ねておくのが作法であるという。
 その間、パンとバター、チーズの皿をかたわらに置いて、パンの上に選んできた料理をのせて食べる。北欧では主食あつかいにされるジャガイモを食べる人もおおい。
  肥満体質のわたしにとって、バイキング料理は警戒すべき食事型式である。いくら食べても料金はおなじということに気を許して、食べすぎてしまうのである。
  北欧のバイキング専門食堂には、100種類以上の食べものが並べられている。胃袋の体験のためにという口実で、一度の食事に20品目以上の料理を食べる日々が続いた。帰国して体重計にのったところ、8日間で3キロふとっていた。