サソリを食う

ベトナムのハノイ国際空港の売店で買った酒。コブラがサソリの尾をくわえている。

泥土のスープ、フグの卵巣の糠漬け、臭豆腐、ラクダのコブの炒め物、30年物のサンマのナレズシ……、世界の珍食、奇食を供する屋台「大食軒」が開店した。料理人の白衣に身をかためた酩酊先生が屋台の亭主で、常連客には「爆笑問題」の田中裕二、太田光がいる。ただし営業時間は30分間だけ。

 
ごらんになった読者もいるであろう。NHK総合テレビの「爆笑問題のニッポンの教養」に出演して、屋台の主人役の酩酊が、奇妙な食べ物をつぎつぎと爆笑問題に食べさせては講釈をしたときのことである。  
 
中国のサソリを姿のまま素揚げにしたものを皿にのせてだすと、グロテスクな形態におじけづいて、爆笑問題の二人は手をだそうとはしない。そこで、わたしが一匹つまんで「おいしいもんだよ」と食べてみせた。甲羅(こうら)を噛みきる、カリカリという音がマイクにつたわる。サソリの肉はすくないので、一匹まるごと、かじって食べるのが定法である。香ばしく、エビやカニに似た味がする。ただし、堅い甲羅がかみ切れる丈夫な歯の持ち主でないと、お勧めできない食品である。
 
 
サソリは猛毒の動物として恐れられているが、実物をみた人はすくないはずである。日本では沖縄と小笠原の島々に生息するだけである。世界には約600種のサソリがいるが、人間が刺されたら死ぬような猛毒をもつのは数種にすぎない。
 
わたしの知るかぎりでは、サソリを食べるのは中国とインドシナ半島である。中国では食用にするためにキョクトウサソリの養殖をおこなっている。食べるためには、サソリを絶食させてから、塩水に漬けて腹の内容物を吐かせ、尾の先端の毒針を取り去ってから、料理をする。
 
中国語の料理大事典をはぐると、12種類のサソリ料理のレシピが載っていた。いずれも姿のまま空揚げにしてから、他の材料とあわせて料理をする方法である。切りきざんで、サソリの姿がわからないようにしたら、ありがたみがなくなってしまうからだろう。姿のまま油で空揚げにして、塩をふって食べるのが、普通の食べ方である。
 
サソリをよく食べるのは、山東省と旧満州の遼寧省あたりである。旧満州には山東料理の影響がつよいことに関係をもつことであろうか。清末には、高級料理の満漢全席の献立にサソリ料理がとりいれたという。山東省の斉南(チーナン)や遼寧省の上等なレストランでは、注文したらサソリ料理が食べられるし、露店でも空揚げを売っている。
 
漢方医学では、全蠍(ぜんかつ)といって、サソリをまるのままゆでたり、煎ってから粉末にしたものを服用すると、破傷風、ひきつけ、筋肉痛、頭痛、中風の後遺症の治療などに効果があるとされる。「毒をもって毒を制す」ということであろう。
 
中国で、人びとがサソリを食べている光景に何度か遭遇した。病気治しのためのではなく、健康そうな人がサソリを食べていた。ゲテモノ食いをする人の深層心理には、普通の人と自分はちがうのだということを誇示する自己主張がある。それにあわせて、薬酒にするときは、蒸留酒にサソリを姿のままいれるのが定法である。サソリの酒漬けをながめながら飲むと、こんな恐ろしい姿をしたものの力が、自分に乗り移るのだということが実感できる。
 
サソリ酒は、中国、インドシナ半島では精力増強、需要強壮の薬効をもつとされている。わたしは飲んだことがないが、ベルギーにもサソリ入りのウオッカがあるそうだ。
 
 
「蛇蠍(だかつ)のごとくきらう」というように、ヘビやサソリは不気味な存在とされている。ところが、ヘビとサソリを漬けた酒がある。写真はベトナムのハノイ国際空港の売店で買った酒であるが、コブラがサソリの尾をくわえている。どうやって、頭部が幅広いコブラを、ビンのなかに収納したのか、おわかりですか?